第10話 毛皮も無い人型には興味無い!



 狩場を観察すると、低木はそれぞれ最低でも五メートルは間をあけてランダム配置されている。


 ヒールラビットは定間隔でぽこぽことポップしては何処かに消えていくのだが、ゴブリンは低木に近付かないとポップしない仕組みなのだろう。


 私はこのゲームをケモニウム補給のために始めたが、それでもヒイロの食事を買ったりするにはお金が掛かる。


 そしてプレイヤーが手っ取り早くお金を稼ぐにはやはり、モンスターを倒してレベルを上げて、上がったレベルでより強いモンスターを倒して行くループを構築するのが最短であり最高率。


 本当は戦う気なんてあんまりなかったんだけど、ヒイロのためにお金稼ぐから、見ててねヒイロ!


 私は気合を入れて、短めの木製バットもしくは棍棒にしか見えないそれ、『初心者の短杖』を構えながら低木のポップ範囲に入る。


 ちなみに装備品はこんな感じだ。


 ◇

 【麻の服セット】

 ・防御力:0

 ・セットスロット:上半身・下半身・足

 ◇

 【麻のフード付きローブ】

 ・防御力:0

 ・セットスロット:無

 ・この褒美は他の布装備に統合できる。

 ◇

 【初心者の短杖】

 ・攻撃力:2

 ・ウェポンスキル:【ディスチャージマジック】

 【アクティブスキル・ディスチャージマジック】

 ・魔力の塊を放つ。

 ・威力・属性:武器攻撃力+INT100%魔法・無属性

 RC:3s

 MP:0

 ◇


 武器攻撃力がたったの二。この補正値が何を意味するのかはまだ知らないが、それでもまぁゴミなんだろう。補正ゼロの麻の服よりは上等なゴミってだけで種別は一律ゴミだ。


 ただウェポンスキルとやらは気になる。魔法が使えるのだろうか? ちょっとワクワクする。


「さぁ殺るか…………」


 ワンドを握った私が低木の半径一メートルより内側に足を踏み入れると、途端に低木がガサガサと揺れ始た。モンスターがポップする演出か。ほんの数秒待つとすぐに木の影から、醜悪な人型の化け物が姿を現した。


 そいつの身長は、最低設定の私とほぼ同じくらいなので、だいたい百二十センチ前後なんだろう。


 全身が汚れた薄緑色で、口は頬まで裂けて鮫のような牙がズラリと並ぶ。醜悪で可愛さの欠けらも無い口だ。さすがに人型、毛皮も尻尾の無い劣化類人猿である。体付きも貧乏で、枯れ木に皮と筋肉貼り付けたらこんな感じだよねってモンスターだ。


 近くで見ると予想の五倍くらいリアルで、相当に気持ち悪い。私はゴブリンのポップが完全に終わってダメージ判定が生まれた瞬間にはもう、私は攻撃をブッ放していた。


「毛の無い人型には興味無いんだよ! この劣化類人猿が! ディスチャージマジック!」


 人外ならせめて尻尾を装備しろ! 毛並みと獣耳があれば尚ヨシ!


 まず魔法を試してみるべく、杖の先端をゴブリンの顔面に向けてスキルを使用する。


 このゲームでスキルを使いたいなら方法は二つあり、一つが今私がしたように発動の意志を持ったスキル名の宣言。もう一つがスキルの発動を意識のみで決定する意識発動、無詠唱、呼び方は何でもいいがその二つ。


 意識発動はコツが必要みたいで、まだ私には出来ない。


「はいゴミダメージです死ね!」


 武器攻撃力とINTを足した数値そのままの威力らしいが、私のINTは五でワンドの攻撃力は二だ。ゴミとゴミを足したところでゴミである事実に変わりは無く、殆ど痛痒を覚えなかったらしいゴブリンに対して私は急いでワンドをフルスイング。


 フルスイングしたワンドの形と重さは殆どバットそのもので、私が全力で振り抜いた一撃はゴブリンの側頭部を捉えてブチ抜いた。クソみたいな魔法ダメージよりは痛そうなので、魔法使うよりコッチの方が倒すの早そうだ。


 本来魔法武器であるはずのワンドの使用法とは思えない、乱暴な使い方である。まぁゴミの扱いとしては上等な部類なのでは?


 フルスイングで頭をブチ抜いたと言っても、別に相手の頭がパーンって弾けた訳でもなし、一撃で必殺出来た訳でもなし、戦闘は続いている。


「でもターン制じゃないんだよなぁ!」


 旧式ゲームならここで攻守が交代したり、手痛いカウンターを貰うかもしれないけど、ここはフルダイブのVRゲームなのだ。


 私は右から左に振り抜いたワンドに勢いを付け、腰を右に回しながらもう一回、今度は左から右に向かってフルスイングした。


 結構な鈍い音と共にワンドから手に衝撃が伝わるが、私は気にせずよろめいたゴブリンの腹にヤクザキックを放った。


「魔法職なのに攻撃魔法がしょぼくてごめんあそばせキーック!」


 下手な技より体重を乗せたヤクザキックで転ばせた方が、戦闘は好転するって、ばっちゃが言ってた!


 嘘ごめん! これ言ってたのばっちゃじゃない、じっちゃだ!


 孫馬鹿なじいちゃんに教わった護身術の一つだよ!


 蹴飛ばしたゴブリンは尻餅をついて、私は引き戻したワンドを大上段に構えたら即座に振り下ろす。


 このゲームは即死に繋がる急所へと強めの攻撃を当てるとクリティカル判定が貰える。


 私は蹴りを除いて三発とも頭に当てた。頭はほぼ全てのモンスターが急所判定。そしてクリティカルは基本的にダメージが倍だってばっちゃが言ってた!


 他にも首を刎ねたり、頭をぶっ壊したり、心臓を刺したりすると敵が即死したりする。攻撃の速さ、強さ、深さによってダメージが増えたりもする。しっかりとクリティカル判定が出る強度の攻撃であれば最低でもダメージが倍になる。


 このゲームはリアル準拠なので、ステータスなんかのシステム的な数値以外にも、素早く振った攻撃には慣性が乗り、振り下ろした攻撃には武器やプレイヤーの重量もしっかりと乗る。


 そして逆に、首を刎ね得る攻撃を当てたとしても、コチラのSTRが相手のVITに負けてたら、その分攻撃は通りづらくなる。端的に言うと首の途中で刃が止まる。それでもダメージは入るけどね。あまりにもステータス負けして攻撃が通らなかったら、頸動脈を切ったはずの攻撃でもクリティカルにならなかったりする。


 さて、いくら私が魔法職でVIT極振りの攻撃力よわよわクソ雑魚テイマーだとしても、所詮ゲーム最序盤の最弱モンスターが相手なんだ。頭を鈍器で三回も全力でブン殴られれば、普通に死ぬ。


 バキィンッ! と、気合いの入った音とエフェクトが発生して、ゴブリンを構成していたポリゴンが砕けて霧散する。


 初めて見るその光景は局所的なダイヤモンドダストみたいで、結構綺麗だった。ゴブリンってゴミから生み出された光景とは思えない。


 そうか、ゴミを綺麗にするってこういう事なのか(違う)。やはり時代はエコだな。


「ふっふ…………、初勝利! そして完全勝利!」


 初戦ノーダメージクリアを果たし叫ぶ私。


 ふん、こんなの不審者を撃退する時に比べたらなんて事ないな。


 ヒイロに褒めてもらおうと笑顔で振り返れば、戦闘を見ていたヒイロも後ろ足で地面をタシッタシッと叩いて嬉しそうに笑う。


 ああ可愛い、結婚しよ?


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