第9話 すいてる狩場。
「はぁ、気が付くと脳内情報が永遠に脱線するな…………」
気を取り直し、次は街の外。プレイヤーが旅をする場所のことだ。
ロアの街から東を背に真正面。西門を出てまっすぐ行くと大きな森があり、西門から続く街道は森を避けて大きく迂回してるそうだ。
森をまっすぐ抜けると次の街があって、危険でも最短で行きたいなら森を抜けて、時間を掛けてでも安全に行きたいなら街道を使う必要がある。つまり現地人は街道を使って、プレイヤーは基本的に森をブチ抜いて移動する。
同じように南に向かうと大きな湖があって、これも街道は大きく迂回してる。
北には意味不明な草原が広がってて、やっぱり街道は大きく迂回してる。みんなだいたい一緒だ。
最短で次の街へ行きたいなら北も西も南も、全部まっすぐモンスターをぶち殺しながらフィールドを突っ切り、安全に行きたいなら迂回しろって流れはどこも一緒。そして迂回路はマジで相当な迂回をさせられるので、プレイヤーはほぼ例外なく危険エリアを突っ切らざるを得ない。基本的にプレイヤーは誰も迂回路を使わない。
ただ、迂回路の先にしかない村などに用がある時は例外だ。このゲームはマップが馬鹿みたいに広いので、未だにプレイヤーが訪れたことの無い村や町が相当数あるとされている。運営の本気が垣間見えるね…………。
それから、ロアの街とフリーフィールドエリア、つまり意味不明な草原と西の森と南の湖、その三つとの間には共通して穏やかな草原が広がって居る。ズブの初心者はその草原でレベルを上げるのがベターだそうだ。
草原にはヒールラビットとゴブリンしか出て来ないから安全とエイさんは言っていたが、同時に運が悪いとそれでも死んでしまうらしい。
なんでも、最初の草原にはヒールラビットもゴブリンも基本的に単独でしか現れないが、運が悪いとゴブリンチームなる名前のレアエネミーが出て、ソロの初心者だとほぼ間違いなく一回はボコられるのだそうだ。
ゴブリンチームとは名前の通りチームで行動しているゴブリンであり、三体で一体の判定を持ついわゆる群体モンスター。全員倒さないと経験値が発生しない。その代わり経験値はレアモンスターらしく普通より多いらしいので、得と損が揃ったウザったい初心者用ハッピーセットである。
私の最初の目的地はもちろんその最初の草原だ。北にある意味不明な草原では無い。
北の意味不明な草原とは、なんか、こう……、本当に意味不明な草原なのだ。それ以外に言いようが無いし、フィールド名も正式に『意味不明な草原』なんだそうだ。ちなみに西の森は『ロアの森』で、南にある湖は『ロアの湖』となっている。プレイヤーはロアの街と区別が面倒だから西の森と南の湖と呼ぶのだけど。
一応、ロア以外の街の外にも森や湖はあるので、ロア以外の場所でここの辺りを呼ぶ時は正式にロアの森などと呼ぶみたいだ。。
それで意味不明な森だが、エイさんのスクショを見た感じ、チンアナゴみたいな草が生えてニョロニョロしてて、チンアナゴみたいな草の先端に確率でレアな果実が成るそうだ。
その果実は採取しても素材になるわけでも無く、売れる訳でもなくて、食べても美味しくないし、名前も『意味不明な果実Lv.1』とか『意味不明過ぎる果実Lv.8』とか。レアなだけで特に使い道がない。本当に意味不明だなって思った。
意味不明な草原に出現するモンスターも、『アンノウンフィッシュ』という、なんかポケットなモンスターを育成するゲームで跳ねる事しか出来ないのに進化すると立派な龍になる赤い鯉みたいな、でも赤だけではなくピチピチ跳ねる色とりどりの魚だそうだ。
何故か陸地にポップする魚型モンスターは、ドロップゼロ。経験値ゼロ。攻撃力ゼロ。だと言うのにポップすると最初から敵対判定。跳ねながら近付いてきてピチピチ体当たり(ダメージゼロ)を行う、ノンアクティブじゃなくてアクティブモンスター。…………そんな奇妙な魚で、意味不明な草原にはその魚しか出て来ない。
攻撃が意味を成さないのに、敵対して自ら殺されに近付いてくる辺り、生命として破綻してる気がする。概念レベルで意味不明なモンスターだと思う。
なんでそんな、意味不明なだけで実害も無い場所すらわざわざ迂回路があるのかと言うと、あまりにも意味不明でNPCも逆に怖過ぎて、そこを通りたくないと言う設定である。近付くと呪われんじゃないかと不安になるそうだ。
設定濃いなぁ…………。
そんなわけで、ただ意味不明なだけで経験値もドロップも稼げないフィールドなんかに用はない。私は最初の草原に向かう。
狙いはもちろんゴブリンであるが、野生のヒールラビットも見てみたい。
例え相手がもふもふでも襲われたら反撃するつもりだが、ヒールラビットはノンアクティブモンスター。つまり自発的に攻撃して来ない存在なので、私もウサてゃん達を攻撃しなくて良い。私はゴブリンを殺しながらウサてゃんを愛でられる。ウサてゃんは肉を欲して襲って来るゴブリンを排除できる。
要はウィン・ウィンの関係であり末永く一緒に幸せでありたい。
という訳で私は今から、ウサてゃんを眺めながらゴブリンとかいう畜生をブチ殺す。
「私、運動神経は良い方なんだけど………」
VRでも通用するのだろうか?
初めて見た時はあれ程感動した綺麗な街並みをガン無視して、さっさと西門から出る。すると街の外には情報の通りに広い街道と、なだらかな草原が広がっていた。
エイさんの話しでは、草原に所々生えてる低木がモンスターのポップポイントだそうな。
辺りを見回すと、私と同じような装備の初心者たちが剣を振ったり矢を射ったりしてモンスターを倒している様子が伺える。
なるほど?
見た感じ、どうやら戦いの素人が相手にしても一体一であれば特に苦戦するようなモンスターでも無いらしく、むしろ低木から出て来た瞬間を狙ってフルボッコにしている。
低木がポップポイントの分かりやすい目印として機能しているため、みんな基本的に出待ちしてリスキルがこの場所のベターなのだろう。
ただその弊害と言うか、既に居る大量のプレイヤーが数あるポップポイントを抑えている形なので、私は空いている低木を探さないといけない。
ふむ。ここは門の近くだから、街からすぐにアクセス出来て、帰りも楽々なこの場所は激戦区なのだろう。
その理論なら逆に、南門と西門、もしくは西門と北門のちょうど中間地点辺りの草原が、最も手薄なんだと推測できる。
そうと決まればすぐに行動。
幸い、チュートリアルの報酬で貰ったポーション類が結構な数あるし、初期装備は破損の心配が無い。そもそも武器以外は能力補正がゼロっていうゴミなので壊れても困らない。
その辺私は詳しく無いんだけど、この手のゲームの装備品には使用すればする程減って行く耐久度ゲージなる物があるらしく、ゲージを全部使い切ると装備品が壊れてしまうそうだ。
だけどゲームを始めたプレイヤーが最初から装備している物に関しては、耐久度が無限なんて設定も同じくらい定番らしく、このゲームに置いてもどちらも実装されている。
なので今私が装備してる物も耐久度が無限であり、どれだけ使っても壊れない凄いアイテムなのだ。防具は補正ゼロだけど。
これだけ聞くとゲーム初心者な私は「じゃぁ少なくとも武器はずっとコレで良くね?」って思ってしまうけど、マコトなんかに言わせると「その辺で無限に拾える木の棒がコスパ最強だからって、それで魔王倒せる訳ねーだろ」とのこと。なるほどな?
そんなこんなで人気の無い場所に到着しました。
「いや、マジで人居ないね。このゲーム、リリースして半年経ってるとは言っても、現状ではまだ新式フルダイブの看板背負ってる唯一のタイトルでしょ? 新規だってまだまだ増えてるんだろうし、こんなに人って居なくなるものなの?」
不思議である。
ゲーム内でスマホが使えたらすぐRINEでマコトに聞くのに。
「まぁ、人が居ない分には良いか。横取りとか横槍とか、ネットゲームでは色々面倒があるらしいからね。その心配が無いならいい事でしょ」
気を取り直した私は、抱っこしたままだったヒイロを地面に下ろして、本当に人気が全く無くなったフィールドで一本の低木に近付いていく。
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