第8話 良く出来てるなぁ。
くそチャラいプレイヤーに声をかけられたあと、なんか強面だけど優しいプレイヤーさんに出会って色々教えてもらった。
名前はえいりゃすさんと言うらしい。強面なのに可愛い名前だ。エイさんと呼ぼう。
無言でオニノゲシみたいな草を差し出して来た時は、失礼だけどちょっと笑ってしまった。シュールだった。
でもヒイロがオニノゲシに惹かれて、もしょもしょ食べる姿が愛らしくて私は幸せになれたので、エイさん良い人。
少し話して、マコトの知り合いらしいことや、このゲームで出会えるモンスターたちのスクショやその情報なんかを教えてもらい、とても有意義な時間を過ごすことが出来た。
ここではエルフっぽいどと名乗ってるらしいマコトから私のアレルギーに纏わる話しを聞いてるらしく、彼自身も飼ってる猫を愛してるから、触れ合えない辛さを想像して同情された。
私としてはリアルでお猫様と同棲してるとか惚気ですか? って内心は少しピキったけど、でも私も逆の立場になって、同棲してるお猫様とアレルギーで触れ合えなくなった彼を想像すると、自害するほど悲しいのは間違いないと思った。なので同情は素直に受け取った。
その後、このゲームを始めたばかりのルーキーがやるべき事を色々と聞き、笑顔でお礼を告げて別れた。
彼との会話の途中、最初に声を掛けてきたくそチャラいプレイヤーがまたやって来たけど、アイツは何がしたかったの?
エイさんは私とヒイロを一緒に見て、ちゃんとどちらにも対応してくれたから喜んでお話ししたけど、最初から私しか見てないナンパプレイヤーとか願い下げに決まってるじゃんね?
私はヒイロと触れ合っていたのだ。ヒイロと遊んでいたのだ。
普通に考えて複数以上でコミュニケーションしてる所に割り込んで、片方をガン無視して絡んで来る輩とか、常識的に考えてどちゃクソ失礼じゃんね?
私のヒイロをなんだと思ってるのか。
私一人に用があるなら、まずヒイロに「こちらのお嬢さんをお借りしても良いですか?」と断るべきだと思う。
二回目も何故か人参持って来てけど、人参をヒイロに差し出す癖に視線は私に向いてるとか、くっそ失礼。いつか殴ってやる。
その点、エイさんは最初に無言でオニノゲシを差し出してきた推定不審者だったけど、それでも私に向かってヒイロを触っていいか聞いた後、ヒイロにもちゃんと同じように聞いて、ちゃんとヒイロから許可を得てから触っていた。ヒイロに敬意を持って接してた。
会話も私と二人で進めるのではなく、ちゃんとヒイロにも話し掛けてた。ちゃんと二人の会話に混ざろうとしてた。
やはりエイさんは良い人。とても良識的で常識的な行動だったと言えるだろう。…………無言接近&無言オニノゲシ差し出し以外の行動は、だけど。
「チュートリアルおわり!」
私は今エイさんから教えてもらった通りに効率よくチュートリアルをこなし、ロックがかかってたスキルシステムを解放してやっと外に出られる状態になった。
チュートリアルもクエスト扱いで、クリアするとお金と経験値が貰える。
内容としては普通にメニュー画面やインベントリなんかのゲームシステムや、スキルの使い方等の操作方法を一通り覚えるだけ。とても一般的なチュートリアルだった。
全てのチュートリアルを終えた今の私はレベル五で、ステータスはこんな感じ。
【
【職業:テイマー】【種族:人間】
・HP:250
・MP:450
・STR:5
・INT:5
・AGI:5
・VIT:55
・MIN:5
・DEX:5
【スキル】
・テイム
・【空き】
・【空き】
・【空き】
・【空き】
【ペット】
・【ヒールラビット:ヒイロ】【Lv.1】
はい、こんな感じです。
レベルが一上がる毎に貰えるSP十ポイントを全てVITに突っ込んだ。極振り続行です。
一応テイマーはペットのモンスターに前衛をやらせて魔法で支援する魔法職らしい。なので本当ならINTを上げるべきなんだろうけどさ。
もうね、このままVIT極振りで行こうかなって。
逃げ出すならAGIも必要だとは思うけど、最悪は課金アイテム使えばSP振り直しも出来るみたいだから、とりあえずこのまま行こうと思う。
テイマーは魔法職扱いなのでHPの伸びも遅いしね。攻撃に耐えられる数値として代替出来るVITは必要だと思うんだ。途中で極振り止めて別のステータスに振ってもいいし。
さて、一緒にチュートリアル受けたのにヒイロのレベルが上がってないのは、よく分かりません。
チュートリアルはプレイヤーにしか経験値が入らないのか、そもそもモンスターとプレイヤーでは経験値の受け取り方に差があるのか、初心者の私には何も分からない。
エイさんとはフレンドになったし、機会があったらその時にでも聞いてみようか。
「じゃぁヒイロ、外行こっか?」
ステータス画面を閉じた私は、抱っこしていたヒイロに笑いかける。
この聡明なウサギはしっかりと私の言葉を理解して、ふわりと微笑んで頷いた。
ゲームを始めたプレイヤー全員が例外なく最初に地も踏むその場所、始原の街ロア。
キャラクリを終えたプレイヤーが出て来る場所が街の東門で、東門の先には道が無く、北、西、南向かって街道が伸びる円形の街である。
いや正確には東門の先にも道は見えてるし、存在自体は有るには有る。NPCも東門の先へと歩いて行ったり、馬車が通過するのも見える。だけどプレイヤーはシステム的に、そっちへ行けない仕様になってる。
そもそも東門の先はマップ的に完全な東端。つまりその先にマップが存在しないので、プレイヤーにはどうしようもない。
このゲームはめちゃくちゃリアル準拠なので、こういった明らかにゲームっぽい仕様は珍しいんだそうだ。もちろんエイさん情報。
しかも東門の先に行けないのも、見えない壁とかに阻まれる感じじゃなくて、東門に近付くと急激にキャラクターの行動に制限がかかり、街の中と東門の外を遮る境界線を踏む頃には、一歩も動けなくなって立ち止まってしまう仕様だ。
このゲームはNPCにとんでもない精度のAIが積まれている。その精度のままこの世界を現実として生活しているので、私たちプレイヤーが見えない壁とかに阻まれる風景は世界にそぐわないんだろうと、エイさんはそう言ってた。
ただ、ゲーム設定的に私たちプレイヤーは、この世界を見守る精霊王って奴がこの世界に呼び込んだ別世界の存在であり、時としてファストトラベル機能なんかでワープしたり、死んだ筈なのに蘇ったりするのは精霊王の力とされている。
NPCたちはプレイヤーが死にまくってもそう言う存在だと理解してるし、NPCたちをNPC呼ばわりしても『別世界の住人から見た自分たちを呼称する言葉なのだろう』と思ってる。
他にもこの世界の住人に理解出来ないタイプの発言はだいたいが『別世界の住人であるプレイヤー独特の文化や行動なんだろう』と判断されて、ネットの話しとかゲームの話しをNPCにしても、「そっちの世界にはそんな物があるんですね。凄いなぁ」って感想を抱かれ、世界に矛盾が生じない様にされてる。
空気の読めないプレイヤーが「お前たちNPCはゲームの存在、仮初の存在だ! NPCのくせに人間様に対して生意気だぞ!」とかめちゃくちゃを言ったとして、NPCはそれもあくまで精霊王に呼ばれたプレイヤーのごく一部が、NPCに抱く考え方の一つとして受け止められる。
要するにその空気が読めないプレイヤー一人がめちゃくちゃ嫌な奴扱いされるだけで、他のプレイヤーにはあまり影響が無かったりする。
もちろん、そんな事を言われればプレイヤー全体に不信感を持つNPCも出て来るが、それこそNPCがプレイヤーに対して抱く考え方の一つであり、要するにお互い様だ。
本当に高性能なAIは細部まで詰めた設定があり、なんならNPCはプレイヤーのログアウトついても正しく認識している。『
だから、先の『NPCはゲームの存在』発言をしても、『外の世界から気軽にこの世界へとやって来て、たとえ死んでも精霊王の力で蘇るなら、確かにこの世界の全てを「遊び」と勘違いして狂っちゃう奴も居るよね』ってなるのだ。つまるところ狂人扱い。
なので本当に凄いことに、NPCと何か待ち合わせをしたとして、それが現実の理由で難しくなったら「ごめん! 向こうで忙しくなってしばらくログイン出来ない!」って言えば普通に矛盾なく通じてしまうのだ。それはそれとして約束を違えた事は怒られるけど。
良く出来てるなぁ……。
それと、NPCは私たちプレイヤーの事を別世界からの来訪者、つまり異邦人と呼んだり、冒険者と呼んだり、その呼び方は実のところ別に統一はされてないそうだ。中にはプレイヤーを不死者とか怪物って呼称するNPCも居るそうで、それぞれに個性があって面白い。
ただ、NPCがプレイヤーとNPCを区別する時、自分達の事は現地人と呼ぶ。別世界の存在であるプレイヤーと区別して
さて、東門の話しにちょっと戻って。
ゲームの設定外の話しにはなるが、東は極東、つまり日本を表して居る。日本からエーテルオンラインという異世界にいらっしゃいっていう、運営からのメッセージらしい。
だから日本に帰る時はロアの東門では無く、己が切り開いた旅先でログアウトをして、己の足跡を刻んで行ってくれって事なのだそうだ。
ちなみに、プレイヤーが東門の先に行けない理由は、精霊王がそう定めたからって設定になってる。精霊王が定めた
ホントに良く出来てるなぁ。マジで異世界に来たみたいだ。
まぁ全部、可愛いスクショ見ながらエイさんから聞いた事である。
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