第3話 私はケモナーだ、ロリコンじゃない。



 そんなわけで、セッティングは完了した。


 頭だけを覆う箱型シェルターみたいなVR機材の本体を、枕を退けてベッドに置く。そして自分の頭をセット。


 傍から見たら機械の箱に頭を突っ込んでるマヌケな絵面だね。看護師さんに見られたくねぇなぁ。


 本体から伸びるコードに繋がったブレスレットを腕にはめて、同じくコードに繋がった電極をなるべく心臓から近い位置に貼り付けて、ヘッドギアに頭を突っ込んでマヌケな格好になれば準備は完了らしい。


 ネットの接続や機材の設定など、面倒なアレコレは全てマコトがやってくれた。後は起動後に本体のアナウンスに従って進めば誰でも問題なく使用出来るそうだ。


 ちなみにマコトはもう帰っている。


 マコトも早く帰ってエーテルライトをプレイしたいらしく、特にお互い、ゲーム内の待ち合わせとかも計画しなかった。


 両親的には多分、ゲーム内で動物と触れ合える事にプラスして、彼氏だと思われてるマコトと一緒に居られれば暴走も減るだろうと思ったんだろうけど。そんな事実は一切ない。


 私はケモナー。アイツはエルフスキー。


 お互い別々に行動した方が、効率的に欲望を満たせるのだ。


 ゲーム内で偶然会うことはあっても、取り敢えず計画して会うことはせず別々に遊ぼうと私達は決めた。


『生体情報確認。ログイン認証。--ようこそ、エーテルライト・オンラインの世界へ。我々はあなたを歓迎します』


 そして現在、私は早速ゲーム初め、すぐに会えるとマコトが言っていたウサてゃんに出会うべく、VRを起動して意識を電脳世界へ飛ばしていた。


 そこは真っ白い空間で、私は半透明で相貌も髪も無いのっぺりとしたナニカになった。


 麻薬をペロッとしちゃう名探偵漫画に出て来る犯人役の黒いアレが真っ白になったバージョン(目と口は無い)を想像すればソレで合ってる。


『まずは、ご自身のキャラクターを作りましょう』


 音声案内と同時に、細々した注意点が私の周りに発生した半透明なウィンドウにテキストで表示される。


 生体認証によるID読み込み式で、サーバーに保存されるキャラクターデータの作成シーンらしい。


 課金すれば同一IDで複数のキャラクターを作れるが、無課金では初回に作るキャラクターの一枠しか無いと注意書きがある。要は課金しないなら後悔しないよう慎重にやれって事か。


 やり直ししたかったら課金しろってスタンスらしいが、ゲームだって商売なのだから、こういった細々とした売上こそがサービスを長く続ける為の一助になるのだろう。私は否定しないよ。


 何故だか世間には課金要素があるゲームを悪だと断ずる風潮があったりするらしいが、棲み分け出来てるんだし気にしなきゃ良いのにね。


 私は普段ゲームに手を出さない人間ではあるが、それはそれとしてSNSなんかは普通に使う。なので、そう言った世間で流行ってる神ゲーやソシャゲの情報なんかは、自然と耳に入ってくる。


 さて、キャラクタークリエイトって言うんだっけ、こう言うの。略してキャラクリ。


 ゲームはやらなくても現代日本に生きていれば、並のネットリテラシーくらいは身に付くものだ。


 だからこの手のゲームでキャラクターの容姿を現実に寄せるのは、良いか悪いかで言えば悪いことくらいは知っている。


 そして、私はもうゲーム内でサモナーかテイマーに相当する何かで遊ぶのは確定的に明らかなのだから、どうせなら自分の欲望に忠実なキャラクターを作るべきだろう。


 例えばの話し、私は幼い頃に憧れた遊びがある。


 動物好きなら一度くらいは夢見た事があると思うのだけど、幼子になって大型犬の背中に乗り、野原を走り回りたい。……なんて、そんな夢想あるよね。


 現実ではだいぶ不可能な夢ではあるのだけど。


 なにせ、力の強い大型犬だとしても、その背中に乗れるほど小さい子供のうちは転落など危なすぎて騎乗なんて出来ないし、一人で問題なく乗れる年齢になる頃には、犬が耐えられない体重にまで育っているのが人間である。


 だけど、乗りたい。


 ゴールデンレトリーバーや秋田犬の背中に乗って、野原を! 全力で! 駆け抜けたい!


 そんな夢があるので、私は可能な限り小さなキャラクターを作る。


 幼女だ。私は幼女を作るぞ。


 設定出来るキャラクター身長の下限が一二○センチだったのでソレに決めて、どうせ幼女キャラを作るならいっそのこと限界まできゃるっきゃるの可愛いふわふわぷにぷに幼女を作りたい。


 別に私はロリコンじゃないけど、それはそれとして獣と戯れる幼女は尊いと思うんだよ。


 そんな訳で髪型は…………、え、二種類設定出来るの? 切り替え可能? マジ? こういうのって変更するのに課金アイテム買わせる絶好の要素じゃないの? マジで? 太っ腹かよ。


 ゲームの運営さんがとても優しい方針らしいので、るんるんでチョコ色ツインテールと緑髪ツーサイドアップを設定した。


 緑髪ヒロインは売れないってジンクスがあるらしいけど、キラッて歌う宇宙のヒロインは緑髪でも人気だろうがよ。私は好きだぞ緑髪。可愛いじゃん。


 身長と髪型さえ決まっちゃえば、あとの項目はプリセットから選んで微調整で終わりだよね。


 わざわざゼロから数値弄るのがコアで通なゲーマーなんだろうけど、私ゲーマーじゃなくてケモナーだしなぁ。


 そんな訳で、私はプリセットの一つであるスキャンされた自身顔をベースにお目々くりくりの可愛いアニメ顔がフィルターされた物を選択した。そのあと目の大きさや頬のぷにぷに感を弄っていく。楽だわぁ。


 目の色は赤で、多種ある瞳の形状や大きさ、ハイライトの組み合わせを吟味しながら、一番可愛くて幼いと思った組み合わせを選んで決定。


 あとは、腰周りと太ももよね。ここ大事。知り合いのロリコンが昔、とても熱く語ってた。


 細すぎず、太過ぎず、ちょっと太めに寄せて野暮ったい感じに調整する。


 いわゆる幼児体型と表現されるそれを、おへそから下腹部の恥丘にかけて微妙なふっくら感を演出しつつ、太もものぷにぷに感も大事にしていく。


 …………もう一度言うが、私はロリコンじゃなくてケモナーだ。幼女に一定の拘りを見せているが、ケモナーである。


 まぁでも、幼女は比較的好きなんだよね。


 無邪気な幼さが少し野生の獣っぽくて、人間ではなく獣寄りの可愛さがある。


 だから人間らしく狡猾さが滲み出てくるくらいに育ったクソガキは嫌いだ。無邪気なロリかショタが良い。ケモであればなおいい。最高だ。


 ケモっ娘幼女は世界を救う。これテストに出るからな。


 ちなみに、キャラクリで獣人は選べず、人間種だけだった。


 クソがよぉ。


 まぁいい。自分が獣になれずとも、ゲームの中ではクオリティの高い獣をモフれるらしいので我慢する。


 要はケモニウムが摂取出来れば良い。出来るのなら、自家発電か他者発電かは問わない。


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