第2話 UMAかよ。



「…………これさ、王道RPGじゃなかった? なんで私が満足すると?」


「職場の部下に聞いたんだが、ゲームの中で動物みたいな敵をペットのように扱えるらしいんだ。その部下によると凄まじくリアルで、撫でた感触なんか現実と相違ないらしい」


 なるほど。


 父さんはよく分かってなさそうだけど、ゲームでは良くあるテイマーとかサモナーなんて職業が存在するゲームタイトルなのだろう。


 私はゲームに詳しくは無いが、それでもラノベくらいは読むし、SNSをやってれば知らないゲームの情報すら、ゲームをプレイしなくても手に入る。なんなら労力ゼロでエンディングまで拝めるぞ。


 流石にVRの中にアレルギーなんて持ち込めないだろうし、私がいくら素晴らしきもふもふに顔を突っ込んで深呼吸しても、確かに発作は起きないのか。


 なるほど、なるほど…………。


「父さん」

 

「な、なんだ?」

 

「その話し、乗った」

 

「そうか!」


 私はこの厄介なアレルギーに蝕まれた体で、如何にしてケモニウムを摂取出来るかを試行するのに忙しくて、ろくにゲームなど手を出した事も無かったのだけど。


 確かに『ほぼ現実! これがゲームの極地なり!』とか謳ってるVRゲームの中でなら、私でも良質なケモニウムを摂取出来るかもしれない。


 とはいえ所詮はVR。如何にリアルだろうと現実ではないのだ。きっと何処かに齟齬や粗があるだろう。ケモニウムを摂取せずに生きていける人種の「現実と相違ない」なんて信用しきれない。


 もしかしたら現実と違いすぎて、少しも満足出来ない可能性も当然あるのだけど…………。


 どっちにしろ、暫くは大人しくするって約束しちゃったからね。満足出来ない内容だったとしても、最低でもその期間は模造品イミテーションで我慢しとくよ。


「なら良かった……! ゲームは病院内でも出来るらしいから、とりあえず退院するまでは遊んで見てくれ」

 

「はーい。…………でも私、ゲームの設定とか準備? とか詳しくないよ? どうすればいいの?」


 私は物心ついた時から、人生のほぼ全部をケモノに捧げて来たヤバい人である。ゲームなんてまともにやった事ない。何をどうすれば遊べるのかなんて、私に分かるわけが無い。


 私がそう聞くと、父さんはニヤッと笑い、母さんも「あらあら……」みたいな笑顔で手で口元を隠した。


「それについてはな、助っ人を呼んであ--……」

 

「--ういーっす。キズナの病室ってここっスかー?」

 

「あ、マコトじゃん」


 病室の扉が開き、父さんの声を遮って現れたのは私の幼馴染のマコトだった。


 平井 真ひらい まこと。同い年の十六歳。


 はた迷惑な事に、どちらの両親も含めて、周囲の人間ほぼ全員から私の恋人だと勘違いされ続ける可哀想な奴だ。


 尻尾も毛皮も装備して無い劣化版類人猿である人間ごときに、私が恋するわけ無いじゃんね?


 せめて、もふもふの毛並みかつるつるの鱗を手に入れてから出直してきて欲しい。もちろん尻尾もな。大事だぞ尻尾。


「おお! 来てくれたかマコトくん!」


「マコトくん、いらっしゃい」


「うぃっす。ご無沙汰してまーっす。キズナもおひさー」

 

「マコト何しに来たの?」


「あ? いやお前、愛川家に呼ばれたからわざわざ来たのにご挨拶だな?」


 話しを聞くと、どうやらマコトはエーテルライトのプレイヤーらしく、今回私のサポートとして父さんが呼んだらしい。


 なるほど。どうやら迷惑をかけたらしいな。すまぬ腐れ縁の劣化版類人猿よ。お詫びに三秒くらいは感謝してやろう。


 こいつも私の恋人と勘違いされて迷惑なのは分かってるが、それでも基本的にお人好しなので、こういった話しにはホイホイ乗ってきてしまう。残念なやつだ。だから外堀が埋まってしまうのに。


 私は病気レベルのケモナーだけど、こいつもそこそこレベルの同志ケモナーであり、常軌を逸したエルフスキーだからなぁ。本当はこんな事に時間使ってないで、ゲームでエルフとイチャイチャしたいよな。ごめんなぁ。


「んじゃ、あとはやっとくんで」


「頼むね、マコトくん」


「マコトくん、またお家にいらっしゃいね? 大好きな唐揚げいっぱい作ってあげるからね」


「うっす」


 それから十分ほど話して、父さんと母さんは帰って行った。


 もう完全にマコトへの態度が私の旦那候補に対するアレだ。やめて欲しい。


「…………もはや誤解を解く方が面倒なレベルだよな」


「それな。……いやマコトもごめんね? なんな迷惑かけたみたいで」


 たとえ病院とはいえ、年頃の男女を個室に二人きりで残していく両親からの信頼よ。


 本当に勘弁して欲しいところだけど、両親的にはむしろ「早く孫の顔見せてね?」なんて具合なので始末におけない。


「まぁ、俺もキズナの気持ちは分かるからさ。…………俺だってアレルギーで動物に触れないとか言われたら暴走する自信あるし、それがエルフだったら命を賭ける」


「めっちゃ辛いからな…………。でも現実にエルフは居ねぇよ」


「でもまぁ安心しろよ。エルオンの再現度はマジでヤバいから、キズナも多分満足するぞ。最初の草原とかウサギいっぱい居るし。…………あとエルフはきっと居る。見つかってないだけだ」


「UMAかよ」


 それはそれとして、エルフスキーだがケモナーでもあるマコトからGOサインが出るほどの再現度なのか。それは期待出来るな。


 こうしちゃ居られない。ウサてゃんがわてぃしを待っている!


 何をしてるのマコト、早く機材とゲームをセットアップしてよ早う早うハリーハリーポッツァーポッツァー!


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