おあとがよろしいようで

Tempp @ぷかぷか

第1話 

 晴れ渡った青い空の下。雲と言えば遥か彼方の山筋にもくもくとわずかなものが雲が登っているくらいだ。

 ああ、コンキリエっぽいなって思う。

 今日はコンキリエの葬式だ。とはいっても参加者は同じパーティだった俺とアペリティフの他は担当ギルド職員と飲み仲間、いきつけの飲み屋の親父数人くらいだった。


「よい若者を亡くしました」

「ええ、そうですなぁ。彼はとても善良で」

「ああ、どうして彼だったのでしょう」


 その言葉が耳に入ってアペリティフは舌打ちをした。

 アペリティフは素行が悪くて俺は根暗だ。とはいえアペリティフの職業はシーフだからそもそも素行がいい者には向かない気はする。けれども無意識に比べられているのだろうな、そんな気はする。

 そんな微妙な空気の葬儀はいつしかおわり、俺とアペリティフだけが残っていた。


「エピ、これからどうする?」

「そう、だな。前衛を募るしかないだろ」

「お前はコンキリエ以外でもいいのか?」

「そんなこといってもコンキリエはもう……」


 俺とコンキリエとアペリティフは幼馴染だ。小さな農村に生まれて農家になるのが嫌で15歳の時に村を飛び出し近くの街で冒険者登録をした。体格が良いからコンキリエは戦士、手先が器用なアペリティフはシーフ、動物が好きな俺はテイマー。それ以降3年、ぱっとはしなかったけれど慎重を期してやってきたはずだった。


 今回コンキリエが死んだのも全くの不運だった。ダンジョンを探索していた時に突然スタンピート魔物の暴走が起こったんだ。それは確かに確率としては存在するけれどとても低い確率で。

 普通に生きて立って山賊に襲われて死ぬこともある。それと同じ程度のあり得る死だった。それでコンキリエは俺とアペリティフをかばって死んだんだ。

 そうだ。死んじまった。生き返らせるには莫大な金がかかる。だからもうどうしようもない。


「コンキリエ、ありがとうな。来世では楽しく過ごすんだぞ」

『あ、うあ?』


 腰を上げようとした時にかすかに音がした。

 するとアペリティフが猛然と土を掘り始めた。


「アペリティフ? おい、何をやってる?」

「今、確かにコンキリエの声がした! 息を吹き返したのなら助けなきゃ!」

「ちょっとまて、コンキリエが息を吹き返すはずはない、だってもう」


 器用なアペリティフは掘り返されたばかりの土をどんどんかきわけて棺にいたり、止めるまもなく打ち付けられた釘を次々抜いていくと、ぶわりと据えた血の香りが広がる。

 ばん! と勢いよく棺が開かれ、そこから伸びた腕は宙を掻いた。

 うん、やっぱり息を吹き返すはずがない。コンキリエはお腹で真っ二つになっているんだから。


『あうあう』

「コンキリエ? お前大丈夫か?」

「大丈夫なわけないだろ? お前清めの塩いれてなかっただろ」

「あ? まあ、そうだな」

「入れないとゾンビ化する可能性があるって配られたじゃないか」

「まあでもさ、ほら」

『うあー』


 コンキリエは下半身が繋がっていないからかうまく起き上がれない。

 だからただ俺たちの方に両手を伸ばしてぱたぱたしてるだけだ。


「コンキリエだ」

「コンキリエだな」

『かゆうま』


 なんだかその馬鹿っぽい様子はは生きてる頃とあまりかわらなかった。

 コンキリエは根は明るいというか頭があまりよくはなかった。

 虹彩が少しドロっと濁っているけれどもそのくらいしか違いがない。

 ゾンビだからといって討伐できるという気にならないほどにはコンキリエそのままだった。


「アペリティフ、埋め戻すぞ」

「いや、お前テイムしろ」

「……何をいってる?」

「テイムしろ。今までも俺たちがこうしようああしよういうのにコンキリエはついてくるだけだった。そんなら何もかわんねぇだろ」

『うーあー?』


 アペリティフの言っていることがよくわからない。けれども改めてコンキリエを見ると、コンキリエはぼんやりして見えた。

 何も、かわらない? 何も?

 コンキリエの目を見てもぼんやりしてよくわからないけれど、全体的には確かにあまり素行もかわらなさそうだ。俺たちを食おうとしなければ、特には。

 だからコンキリエをとりあえずテイムした。

 テイムされてぼんやりしているコンキリエの腹をちくちくと2人で縫う。アペリティフは手先が器用だ。それで金に変えようと思って持ってきていたコンキリエの鎧を着せて立たせると、驚くべきことに何の違和感もなかった。


「ちょっとびっくりした」

「予想以上だな」

『あう?』


 それから俺たちは3人で様々なところにいって冒険をしたけれど、誰もコンキリエがゾンビだとは気が付かなかった。鮮度が良かったから腐ってなんか全然なくて、腹に傷があるくらいだ。

 故郷に戻ってコンキリエの両親にも気づかれなかったことに混乱したが、最近はひょっとしたらコンキリエはずっと前からゾンビで、俺たちがそれに気がついていなかっただったのかも知れないという気がしている。


Fin.

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