爆発オチなんてサイテー!!

椎楽晶

爆発オチなんてサイテー!!

ここはとある週刊連載のギャグ漫画の世界。


彼らは設定メモの時に生まれ、本誌への登場によってこの世界に降りたつ。


何かと騒動に巻き込まれる双子の兄と冷静にツッコむ双子の妹。

双子の兄妹きょうだいが起こすドタバタ学園ギャグは、舞台と登場キャラが高校生と言うこともあって、やや大人向けなシュールさやダークさ、アダルトな雰囲気漂うエロギャグ、ラブコメの要素を入れつつも

時にバトルに舵を切られ、それでも一応は『ギャグ漫画』として誌面では紹介されている。


しかし、単行本にして10冊を越えた現在、この世界はとある危機を迎えていた。


そう、マンネリ化だ。


繰り返されすり減る使い回しのネタ。

数多に新キャラを生み出し、それなのに結局いつものメンバーで話を進め、

最近は爆発オチと言い逃げに投げっぱなしばかり。


おかげで、掲載順はどんどん下がり

ついに、もう後がない…最後尾にまで落ちてしまった。


かつては巻頭カラーを飾り、表紙を任され…テコ入れでバトル化もしたのにギャグに戻り成句し続けている稀有稀有なマンガ、とも評されたのに…。


今では、その面影はない。


作者も口を開けば『やめたい、やめたい』を繰り返す。

ネタがない。オチが思いつかない。才能がない。楽しくない。


そんな愚痴まみれの作者に一言、言いたい。


泣きたいのはこっちの方だっつーの!!!!




今日も、舞台となっている学校に漫画のメインメンバーが集まる。

しかし、そこに主人公兄妹の姿はない。


双子はとっくに精神をすり減らし、漫画本編が始まるまで動くこともできない無気力状態におちいってしまっているのだ。


ただ『主人公である』矜持だけで双子はは立ち上がり、演じて、また電池が切れたように倒れて動かなくなる。


ギャグをやればつまんねー。ラブコメすれば鈍感すぎてイライラする。頭悪い。

バトルシリーズで兄妹の絆をアピールすれば、流行りに乗っかろうと必死w


そんな世間の評価はこの世界にまでしっかり聞こえてくる。


それも大音量で。四六時中。


今も1歩外に出れば、先週掲載された内容への酷評が町中に響いている。


それはどのキャラへのディスもあったが、やはり主人公である2人へのそれが1番酷く、ついに潰れてしまった彼らを哀れに思いこそすれ無理に立ち上がらせることは出来なかった。


休めるうちに休んで欲しい、どうせまた今週が始まれば酷評されるのだから。

…全ては、大したネタも思い浮かばない作者が悪いのに。


『くそ!!また俺の話で1㎜も進展しなかった!!』


彼は、双子兄に恋する2人の女子の片方、通称・ポニテに恋する男だ。


ラブコメの王道として、鈍感力を発揮しまくる双子兄に振り回される女子2人に、さらに振り回される…狂言回しの猿回しとして、都合よく生み出された当て馬キャラ。


彼はポニテに恋している設定だが、生きているこの世界では担任の女教師と付き合っている。

いずれくるはずの、ラブコメの当て馬キャラとして狂言回しの役目が終わったら結婚する約束をしていた。


対する女教師も、男の役回りを理解した上でその愛を受け入れた。

とはいえ、女風呂に突入したがったり、女子生徒にセクハラ発言したり、ゲスが!!と吐き捨てられるのを背景の一部として見るたび泣きたくなる。


それが、その役割で産まれたキャラの生き様とはいえ、最近はあまりにも使い回しがひどい。


作者のネタ切れとそれによる人気低迷をエロギャグで巻き返そうと、エロラブハプニングな下世話なネタが頻発しているからだ。


2、3週前のネタでは、ラストで女風呂と一緒に爆発されて吹き飛ばされていた。


本当、爆発オチなんてサイテー!!



『それを言うなら僕、どこに行った事になってるの??』


泣きながら訴えるのは、お下げで僕っ子と言う

担当編集者の性癖によって生み出された女子生徒だ。


担当編集者のお気に入りと言う事で登場時は出番もセリフも多く

双子妹に恋する男子に横恋慕し、見事に略奪する設定であったキャラだ。


しかし、今はとある回で傷心したような顔をして立ち去ってから…そろそろ丸1年が経とうとしている。


彼女自身もその男子が好きだったので、担当編集の熱烈プッシュにより略奪の未来が開けてたいそう喜んでいたのだ。


しかし、そんな担当編集のお気に入りだからこそ下手なことはさせられず

動かしにくさから徐々に出番が減り、ついには失踪1年。


ちなみに、くだんの男子だが最近の展開で双子妹とは普通に良い感じで

ネットの評判としては『ようやく妹のラブコメが落ち着いたから次こそ兄の番だね』『長かったテンプレ鈍感ラブコメにも終止符が!!』と、

もうすでに片付いた扱いになっていて、今更彼女の復帰&略奪は無理筋だ。


彼女の愛してやまない男子は、今は双子妹のそばに寄り添っている。

彼は双子妹を愛していたので、話の展開で成就した扱いになっているのを幸いに、ちゃっかり双子の家に入り浸り支えるふりをして依存させている。


進展のない鈍感ラブコメしているうちに、メンがヘラってしまっていたらしい。


彼女だって、半ば諦めている状態だが『それでもまだ好きー!!』と

教室の窓を全開にし、夕日に向かって声を張り上げた。


返す返すも、担当編集の猛プッシュ悪い。


何しろ、失踪しているのだ。その場にも居ないので背景にも居られない。

同じコマに並ぶことすら出来ないのだ。


返す返すも、担当編集の猛プッシュ悪い。


その他、名前はあるが『背景の眼鏡』や『バイクのにいちゃん』と行った通称の方が馴染まれている、いわゆる雛壇キャラも揃った教室内は、あっちで嘆き、こっちで憤り、混沌を極めている。


こことは別の場所では、名も無きモブや背景や謎に置かれたミニキャラたちの愚痴会場があり、

それとは別の場所に、1話限りに生み出され、その後出番もない鉄砲玉のような扱いになっているキャラの溜まり場もある。


作品世界の至る場所で、作者への愚痴に今後の展開への不安。

連載終了への恐怖を共有しあっている。




そんな世界の隅々にまで響く突然のサイレンの音。


次のネームが切られ、担当編集のOKが入り、下書きがされ始めたのだ。

登場するキャラにスポットライトがあたり、光と共に今週の内容が台本として流れ込んでくる。


『やった!!ぼ…僕、出番がある!!』


双子妹の相手役男子に横恋慕するキャラ、お下げ僕っ子回がついに来たのだ。


これも担当編集の猛プッシュのおかげだろう。ありがたい!!


即座に手のひらを返し涙を引っ込めウキウキと支度し始めたた彼女は、

しかし、ラスト近くまで流れてきた今週の内容に凍りつく。


『恋の成就のために爆弾の作り方を学んだ僕っ子おさげは、手作りの爆弾を縦に恋人となることを要求する』


もう、オチが読めた…。


作者のとんでもない設定により、爆弾作りキャラにされた僕っ子おさげの手のひらに、どこからともなく爆弾が現れる。


彼女は嘆きのままに力一杯、その爆弾を投げ捨て教室を飛び出した。

爆心地となった教室は轟音とともに大破。


愚痴を言い合っていたキャラたちは焦げたり髪がチリチリになったり、服が破れたりしたけれど、ギャグ漫画なので一瞬で元に戻る。


『爆発オチなんてサイテー!!』


遠く走りさす方角から爆発音と少女の嘆きがこだました。


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