第70話 攻撃開始
「見えてきたぞ」
「懐かしいような、そうでもないような気がするね」
「別に見ていて楽しい景色ではないな」
ルシオン王国は、俺と柚希乃が協力し合おうと誓い合った思い出の地であると同時に、こんな不条理がまかり通る世界へと強制的に連行された嫌な記憶の残る土地でもある。それを眺める俺達の気分は複雑だ。
「だが、そんな葛藤ももうすぐおさらばだ」
これから約一時間後には、イザナ皇国によるルシオン王都への攻撃が始まる。衛星経由で精密誘導が可能な巡航ミサイルの命中精度は正確無比だ。百発百中で王城を撃ち抜くと開発者の俺が保証しよう。
「《マスター。大島アイシャから通信が入っています。繋ぎますか?》」
「繋いでくれ」
と、そこへミネルヴァがアイシャからの通信を受信したので応答するように伝えると、コックピットの全球型大画面の端にアイシャの顔が小窓で映し出された。
「《進次センパイ、王都に着いたんだね。こっちは準備オッケーだよ。いつでも収容できまーす!》」
「計画通り無事に部隊を展開できたみたいだな。この後もよろしく頼むぞ」
「《モチのロンだよ。……あっ、それと事前に潜入した紗智子先生達との連絡もついてるよ。九割以上がイザナ皇国への退避を希望してるってさ》」
「九割か。得体の知れない国からの救援の手にしては退避希望者が多いと受け止めるべきか、あるいは同じ国の出身にしては少ないとみるべきか……」
「《まー、割と多いと思うよ。大丈夫だって。変なのが混じってたら銃ぶっ放しちゃうからさ》」
「
「《そこは大丈夫! 何せこっちにはホシノンがいるんだから》」
「星野か。彼には俺も期待しているよ」
彼は以前に救出された紗智子先生を含む一八名の遭難者のうちの一人で、【人狼】という名前の『恩寵』を持っていた。字面的にルシオンの神官は魔獣に
そこを紗智子先生達に拾われて、結果的にこうしてイザナ皇国の仲間になっているというわけだ。
そんな彼の【人狼】の効果は、使い方さえわかれば実に有用なものだった。それというのも「裏切り者の炙り出し」だ。聞けば彼は日本にいた頃は人狼ゲームが大好きだったそうで、よくネット上でオンライン人狼ゲームに耽っていたらしい。
なるほど、ルシオン王国の人間が能力の詳細を予想できないわけである。
まあとにかく、彼が同行している限りは反乱分子が紛れ込む心配はしなくてもよいわけだ。本当、星野君様々である。
ちなみに星野自身が裏切り者になる可能性はあるのかについてだが、「故意に嘘をつくと、嘘の大きさに比例して一定期間【人狼】の効果が著しく制限される」のだそうだ。
おかげでインターネット回線が新設されたにもかかわらず、あれだけ好きだった人狼ゲームがプレイできないということが発覚して大いに嘆き悲しんでいた星野君であった。なんというか、ドンマイ。
「さあ、そろそろ夜明けだ」
ルシオン王国に滅びをもらたす夜明けが訪れようとしている。そして同時にそれはイザナ皇国に自由を告げる福音ともなる光だ。
「《沖田君。校長先生達にはなんとか納得してもらって、王城から退避してもらいました。今、王城には日本人は誰もいないわ。……いけるわよ》」
紗智子先生から通信が入った。どうやら日本人全員の待避に成功したらしい。本当、よくやってくれた。
もし全員が退避してくれなくても攻撃を中止するつもりはなかったが、俺としても同胞殺しはできれば避けたかったからな。
「紗智子先生、尽力ありがとうございます。これで心置きなく王城を吹き飛ばすことができる」
王城を吹き飛ばした後は、反撃してくるルシオン兵達を圧倒的火力で各個撃破だ。最強の盾にして矛である「アマテラス」に敵う戦力は、ルシオン王国には存在しない。
「《マスター、午前五時になりました。日の出です》」
白み始めていた夜空の端。地平線から眩しく輝く太陽が徐々に姿を現す。
「《巡航ミサイル、観測ポイントを予定通りに通過しました。まもなく王城を攻撃します》」
「よし。……いくぞ、柚希乃」
「うん。気合い入れてこう」
ここから先は、事態が急速に動いていく。桜山高校の面々の命運は俺達の手に委ねられているわけだ。
「《弾着まで残り三〇……二〇……三、二、一、弾着》」
亜音速で俺達の頭上を越えていった数発の巡航ミサイルが、あっという間に王都へと突入して消えていく。やがて遠くに聳える立派な白亜の城が、真っ赤な爆炎と白い煙を撒き散らして吹き飛んだ。
「《――――命中》」
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