第59話 タンデム・マシン

 異世界に転移した際に俺達に宿った摩訶不思議な力である『恩寵グレース』。「機甲騎士マシンリッター」を開発していく中で、この『恩寵』は特徴に応じていくつかの分類が可能なことが判明した。


 たとえば俺の【SF】や柚希乃の【銃士ガンナー】、アイシャの【操縦】といった本人の技量や知識に基づき、それを強化・拡張ないしは発現する異能力系の『恩寵』は「擬似恩寵発生装置エクサンプラ」での再現が不可能であった。眞田の【プログラマー】や紗智子先生の【教育者】、姫乃の【診断】なんかもこれにあたる。

 一方で、綾の【蔵屋敷】や百合先輩の【転送】、ほまれの【生体恒常性ホメオスタシス】のような一定の状態や現象を発生させる類の『恩寵』は、「擬似恩寵発生装置エクサンプラ」で再現が可能だった。


 これについて俺は前者を「異能系」、後者を「現象系」と名付けたが、おそらく両者の違いには魔素の動きの特性の違いがあるのだと思われる。

 「現象系」は時と場合にかかわらず一定の効果や作用を現実世界に及ぼす『恩寵』だ。当然、魔素の動きも基本的には定まったものとなってくる。

 それに対して「異能系」は、『恩寵』を発動する対象や時間、距離といった諸々の条件によって得られる効果は実に様々だ。そして「擬似恩寵発生装置エクサンプラ」にできるのは、特定の状況下における魔素の動きの捕捉トレース複製コピーのみ。条件に応じて柔軟に魔素を制御する必要のある「異能系」は、「疑似恩寵発生装置エクサンプラ」との相性が悪かった。


 とはいえ、それでも『恩寵』の複製コピーというこれまでにない画期的な技術を実用化できたことの利点は非常に大きい。おかげで戦略兵器の動力源である小型核融合炉がついに完成したのだ。

 その名も「Sドライブ」。未来を希望の光で照らす人工の太陽SUNということで、こう名付けることにした。

 原理としてはこうだ。まず、綾の【蔵屋敷】を「疑似恩寵発生装置エクサンプラ」で疑似的に再現し、ここに核融合炉を格納。そこから同じく再現した百合先輩の【転送】でエネルギーを外部の通常空間に出力、機体に供給する。その際の出力制御システムのプログラムは眞田が開発を担当した。

 一見すると単純な仕組みだが、これを実用化するには実に多くの実験と研究の試行錯誤が必要だった。俺だけじゃない、皆の協力がなければ不可能だった技術だ。色々な『恩寵』を持ち、かつ各々が優れた才覚と熱意を持っていたからこそ生まれた「Sドライブ」。この小さな太陽は、きっとイザナ皇国に夜明けをもたらしてくれるだろう。


 そしてこの「Sドライブ」を開発したことで実現したのが、「機甲騎士マシンリッター」の各種装備だ。


 まずは武装だ。

 無尽蔵に近いエネルギーが供給できるようになったことで、電力源に課題のあった携行型レールカノンの装備が可能になった(ちなみに戦車や装甲車は補給を前提としているので電力源に関しては現状のままで問題ない)。

 その口径は一二〇ミリ。現代西側戦車の主砲と同じ大きさである。砲弾には装弾筒付翼安定徹甲APFSDS弾を採用している。レール砲なので装甲貫徹能力は現代兵器以上だ。

 また、装甲車に採用していた三五ミリレール機関砲を副武装として搭載することで、使用弾薬に互換性を持たせてある。生産ラインを圧迫しないための必須要素だ。

 これに加えて、高出力のレーザーによる自動迎撃装置も新たに開発、搭載することにした。敵の砲弾(この世界に存在するのかはわからないが、どうやら銃はあるっぽいので大砲ももしかあるのかもしれない)くらいなら簡単に迎撃が可能だ。もちろん兵士が着ている金属製の甲冑なんかも余裕で貫通できる出力である。これで多対一の戦闘も怖くない。


 続いて装甲面だ。

 これには以前開発した単分子ワイヤーソードの技術を応用した「単分子装甲システム」を採用した。アダマンタイト超合金(タングステンや魔鉄などを用いたファンタジー金属由来の合金だ。超硬いぞ!)や特殊カーボン素材、セラミックなどで構成されている機体表面を単分子素材で被覆することで、現代戦車の複合装甲を遥かに上回る防御性能を実現することに成功した。

 機体を覆うほど広面積の単分子化を維持するにはそれなりのエネルギーが必要だったが、これもSドライブの搭載によって常時展開が可能となっている。この世界での実在がまだ確認できていないドラゴンのブレスであったとしても、この単分子装甲を貫くことは不可能に違いない。


 お次は推進機関。

 機甲騎士マシンリッター背面に、Sドライブから供給される莫大なエネルギーを利用したプラズマジェットエンジンを搭載してある。外気を取り込んで高熱で圧縮、それにより発生したプラズマジェットを噴射してその反作用で高速移動および飛行を可能とする、最強チート兵器には欠かせない鬼馬力推進機関だ。

 ジェット機以上の推進力を持つこのプラズマジェットエンジンが実現した機動性能は、それを制御するだけでも一苦労だ。いくら【SF】で創造したものならばある程度の操縦バフがかかるとはいっても、流石に限界はある。

 そこで役に立ったのがアイシャの【操縦】を学習した「機体制御プログラム」だ。これの開発にあたっては眞田がいかんなく【プログラマー】としての実力を発揮してくれた。おかげで開発者の俺であればなんとか操縦が可能な程度には、機体制御の難易度も下がっている。

 なお、この機体制御プログラム無しでも操縦できちゃいそうなアイシャであるが、彼女には既に空軍でのハイパーゼロ部隊隊長という役目があるので、機甲騎士マシンリッター搭乗者パイロットの件は今回は見送られた。いずれ彼女専用機を開発しても良いかもな。


 最後に搭乗者だ。

 実はこの機甲騎士マシンリッター複座機タンデム・マシンである。操縦担当は開発者にして【SF】によるバフのある俺こと沖田進次。

 そして攻撃担当が————


「【銃士ガンナー】による百発百中の超精密射撃かぁ。うーん、腕が鳴るね! 一二〇ミリレール砲が火を噴くよ!」


 我らがイザナ皇国軍が誇る最強の狙撃手、叶森柚希乃だ。

 この機甲騎士マシンリッターは皇帝の俺自ら操縦し、その相棒パートナーの柚希乃が敵を撃破することにより、はじめてその革新的な機体性能が十全に発揮される仕組みになっているのだ。


「やっぱり沖田君と叶森さんが乗ってこそ、皇帝の権威が強まるというものね」


 そう言うのは紗智子先生だ。彼女は直接開発には関わっていないが、最後の起動シークエンスには俺の遺伝情報が必須であると強硬に主張していた。

 その理由としては、まず国家の要である戦略兵器なのだから、皇帝以外の人間が勝手に起動できては安全保障上のリスクになりかねないというのが一つ。

 もう一つが、最強の兵器を運用できるのが皇帝(あるいは皇帝が許可した人間)だけのほうが、皇帝の権威向上に繋がるからという点である。

 両者ともに実に納得できる理由だったので、俺は眞田と協力してSドライブ起動時の鍵に俺の遺伝情報を組み込むことにした。なお、既に死んでいる俺の細胞ではSドライブの起動は不可能である。落ちた髪の毛とかで他人が起動できたら困るからな。


 そんなこんなでイザナ皇国は、機甲騎士マシンリッターという最強の盾にして矛を手に入れたのであった。










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