第57話 建国後、そして夢のロマン兵器

 あの後、俺が皇帝に即位することになりそうだと柚希乃に伝えたところ、彼女は「進次がついに皇帝陛下か~。じゃあ元号は『SF』かな?」などと言ってケラケラと笑い転げていた。

 それで良いのかと訊いてみれば、柚希乃は真面目な顔になって「ようやく私達の国が形になったってことだもん。ダメなわけないよ」と言って俺を優しく抱き締めてくれた。

 ……俺は本当に良い相棒を持ったな。柚希乃を柔らかく抱き返しつつ、密かに目を潤ませていたのは絶対に誰にも内緒だ。


 そんなこんなであれよあれよという間に「イザナ皇国」の建国が元老院の会議で決定し、広く住人達に知らされることとなった。住人達の反応は悪くなかった。むしろ、これまで正式に建国を宣言していなかったこともあって、ようやく国としての体裁が整うことに安堵する声が多数を占めたくらいだ。


 で、新しく敷かれる政治体制だが、かつての歴史における封建制に近いものになった。


 最高意思決定権――――すなわち主権を持つのは「皇帝」の俺こと沖田進次だ。その下に上級意思決定機関として「元老院」が置かれることになった。元老院議員の構成メンバーは以前のまま引き継がれたのだが、ここで新たに彼らには爵位が与えられることになった。

 まず、建国に多大なる貢献を果たした初期メンバーである柚希乃と綾とアイシャ。この三人には「公爵」の地位が下賜された。

 続いて中興の祖ともいえるリガニア人代表のモーリスには「侯爵」位が、国家をまとめ上げる上で奔走してくれたリオンと紗智子先生には「伯爵」位が与えられることになった。

 セリアや姫乃、眞田といった中核メンバーには、その貢献度に応じて「子爵」や「男爵」などの貴族位を賦与している。


 また、国家を運営する上で必要な憲法およびそれに基づく法律の制定は、紗智子先生が中心となった元老院メンバーによって進められた。社会科教師なだけあり、紗智子先生の見識には舌を巻かされるばかりだった。おかげで色々と勉強になった俺である。


 一般国民達の権利についてだが、基本的人権は尊重しつつも、建国から間もなくまだ国が開発独裁の次期にあるということもあって、参政権の導入は見送られた。

 もっとも俺とて彼らの意思を無視したいわけではないので、目安箱のような意見投書ポストを設置することにした。「エンタメ施設が欲しい」や「出版業界を援助してくれ」といった要望が次々に送られてきており、目下のところ元老院議員達はそれらの意見を参考にしながら国家運営に精を出しているようだ。


 で、お次が国際的なイザナ皇国の地位の確立だ。対外的に建国・独立を宣言するため、元老院議員が一丸となって作成した「イザナ皇国独立宣言」をルシオン王国、ヤークト帝国をはじめとした周辺諸国に送り付けておいた。

 発送手段は巡航ミサイル————ではなく、イザナ皇国が誇る多用途戦闘攻撃機「ハイパーゼロ」だ。国防軍所属の航空部隊が宣言を書いた紙を各国の首都に大量投下することで、一方的に独立宣言を突き付けておいた。

 もっとも、承認をしてくれた国家は今のところ一つもない。だがルシオン王国にいる日本人達には伝わったことだろう。これでかねてより練っていた日本人救出計画、通称「ノアの方舟計画」が進めやすくなったというものだ。


 最後に、建国に際して都市防衛軍を再編し、国防軍と呼称することに決定した。最高指揮官は国家元首である俺。国防軍のトップは叶森柚希乃元帥だ。

 「ハイパーゼロ」を中心とした空軍に、「七四式戦車・改」や「八九式装甲戦闘車・改」、都市防衛用巨大レールカノン(通称『叶森砲』)、歩兵部隊などによって構成された陸軍、「チヌ丸」や大型トレーラーによって構成された輸送部隊などがある。海軍は今のところ存在しないが、海を発見し次第、新たに編成する予定だ。


 で、ここからが重要なポイントだ。

 現時点で俺達の持つ軍事力は世界最強の水準に達している。守備に徹する限りはどの国にだって負けはしないだろう。

 だが「ノアの方舟計画」のように、敵地に飛び込んでいく作戦を遂行するには若干の戦力不足感が否めなかった。


 例えば機甲部隊だ。これは防御力も攻撃力も限りなく最強に近いが、万が一弾切れやガス欠を起こせばたちどころに無力になってしまう。歩兵もそうだ。自動小銃や単分子ワイヤーソードを装備した兵士は一騎当千の戦力を発揮するが、文字通り一〇〇〇人の敵に囲まれてしまえば流石にひとたまりもないだろう。

 戦うことを生業とする兵士とて、命は一つしかない尊いものだ。特に国家自体の人口がまだまだ少ない現状では、たとえ兵士といえども失うことは絶対に避けたい。


 そこで俺は、補給無しでも敵地での単独作戦行動が可能な戦略級強襲兵器の必要性を痛感した。

 その兵器に求められる条件は以下の四つ。


 その一、敵地においても補給要らずでエネルギー切れを起こすことがない。

 その二、高い火力と防御力、そして機動力を兼ね備え、どんな困難な状況においても作戦を遂行可能な汎用性、ならびに戦闘能力を有する。

 その三、既存の兵器とは一線を画する性能を持ち、その存在を以てルシオン王国やヤークト帝国といった他国への抑止力たりうる。

 その四、【SF】らしいロマンある兵器であること(超重要!)。


 これら四つの条件を満たす兵器の構想はただ一つ。


 それは以前、柚希乃と話していた理想にして、俺がSFオタクになった原点の一つでもある架空の兵器。


 ————すなわち、核融合炉を搭載した夢の巨大人型兵器メカである。








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