第40話 要塞都市構想

 旧リガニア王国出身の難民を受け入れてから、数日が過ぎた。あれから更に十数棟の農業ビルとマンションを建設し、増加した食料需要への対応と住宅の供給には目処がついた。

 更に加えて一部農業ビルにて綿花の栽培や、例の巨大ミミズが吐く糸を採取する養蚕(?)事業も開始、紡績・製糸工場を設立して旧リガニア人達に仕事を与えることにした。これで衣食住のすべてが揃ったことになる。

 ちなみにこれらの仕事に従事した人間に支払う給料は日本円のイメージで新たに発行した沖田銀行券、通常「沖田円」だ。沖田平野一帯に広がる都市に流通する貨幣は、この「沖田円」にすることが日本人メンバーとリガニア人の代表者数名からなる議会(これは「元老院」という名前になった。なんだか少し中二心が刺激されるネーミングセンスだ)で決定された。

 俺は元老院議長、そして柚希乃が副議長だ。綾には書紀を、アイシャには司会をお願いしている。ちゃっかり日本人メンバーが主要ポストを独占しているが、もともとここは俺達が作った都市なので文句は言わせない。まあリガニア人を迫害するわけでもないし、そのくらいは別に構わないだろう。この件に関してはモーリス達も納得していたので、問題はない。

 一つ面白かったことが、貨幣に対する価値観の違いだ。現代地球の通貨は国家による信用の下に成り立っているが、この世界においては貨幣自体に含まれる金や銀といった希少金属がその価値を担保していた。原始的な兌換紙幣くらいなら一部地域でも流通していたみたいだが、完全な不換紙幣のシステムはリガニア人達にはなかなか理解しづらかったようだ。

 唯一、セリアだけがすんなりとこのシステムを理解して、モーリスやリオンをはじめとしたリガニア人達にわかりやすく説明していた。理解させるために約束手形やら契約書類の例を出していたのには驚かされた。セリアの理解度の高さと順応の速さは賞賛に値する。

 ちなみに日本人メンバーだと、アイシャが頭に「?」を浮かべて困惑していた。綾がそんなアイシャを満面の笑みで見守っていた光景には、なんというか哀愁のようなものを感じずにはいられなかった。


「流石に法律作るのはまだもうちょい時間がかかりそうだね」

「専門家がいないからな。日本人……できたら教師の誰かを迎え入れられたらかなり助かるんだが、そううまくいく筈もないよな」


 高校、それも進学校の教師になるくらいだから、それなりの知識量や学力は期待できる。少なくとも生徒よりかはよっぽど頼りになる筈だ。俺達には無い視点から色々とアドバイスをくれると非常に助かる。


「それにしても、一気に本格的な都市っぽくなったね」

「そうだな、人口が増えたからな」

「責任重大だね」


 元老院議事堂の窓の外に広がる叶森台地のビル群を眺めながら、俺と柚希乃はそんなことを話し合う。思えば、俺と柚希乃の二人で始まったこの旅が、ここまで大きくなったんだよな。最初に俺達が協力し合ってなんとか生き延びたからこそ、この都市があり、この住人達の命があるんだ。


「これからもこれを守っていかないとな」

「お、重武装宣言かな?」


 ワクワクした表情の柚希乃が拳を胸の前で握りながらこちらを覗き込んでくる。楽しそうな奴だな。


「MP不足問題も解消したし、科学設定もだいぶ煮詰まってきたから、そろそろ戦車が作れると思うんだよ。だから機甲部隊の新設に、それを運用する旧リガニア軍人達を中心とした国境警備隊の編成、都市を囲む防壁に、都市全体のエネルギーを賄う新たな発電所の建設。やるべきことはたくさんあるな」

「なんか戦国時代の城郭都市みたいだね」

「ああ。そうだな……『要塞都市構想』とでも名付けようか。俺はこの都市を守るために、都市全体を要塞に作り替えるぞ」

「巨大レールカノンの開発予定はありますか!?」

「……ないけど、作ってもいいぞ」

「やったあ!」


 柚希乃がそれを運用してくれれば、それだけで射程圏内のすべての敵が侵攻不可能になるからな。あれ、要塞都市なんて言わなくても、それだけで問題は解決するんじゃ……?


「とりあえず、そうなるとますます再生可能エネルギーだけじゃ電力面が心許ないな。電力は国家の要だ。早急になんとかせねば」


 既にこの都市の一人当たりの消費電力量は、現代日本のそれを遥かに上回っている。住居に農業ビルに工場にと、たくさんの生産設備をたった五〇人とちょっとで回しているのだから、当たり前といえば当たり前だが。


「じゃあ、とりあえず早速戦車作っちゃおうよ。私も手伝うからさ」

「……お前が早く戦車を見たいだけだろ」

「バレてたか」


 これだからミリオタって奴は。まあそんな柚希乃だからこそ、頼りになるんだけどな。

 期待に(身長の割に意外と大きめの)胸を膨らませる柚希乃を見つめながら、早速脳内で戦車の設計に取り掛かる俺であった。



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