第41話 開発計画

「さて、一言に戦車と言っても色々あるからな。どれを作るか迷うな」


 戦車が登場してから一〇〇年と少し。その間に実に様々な戦車が登場しているわけで、それらすべてを把握しているとは到底言い難い俺達ではあるが、普通の人と比べたらそれなりには詳しいのもまた事実。プラモデラーとして第二次大戦〜現代戦車を中心に色々と作ってきたので、だいたいの形や仕組みは素人なりに理解しているつもりだ。


「せっかくだし最新鋭の一〇ヒトマル式でも作ったら?」

「そうだなぁ……確かに総火演で見た一〇式は迫力満点だったよな。ただ、いきなり高性能なコンピュータを積んだ最新兵器を作るってのもハードルが高いんだよな」


 陸自が運用している一〇式戦車の最大の特徴は、なんといっても「C4Iシステム」という高度な情報処理システムにある。各部隊や車輌との連携を密にして、火力を最大限効率的に発揮するコンピュータシステムだ。わかりやすく言えば、超高性能なインターネットである。これがあるおかげで自分からは見えない敵を狙撃したり、あるいは味方が同じ敵目掛けて無駄に集中攻撃してしまったりということを防げるわけだ。

 ただ、これを作るためにはコンピュータを作らなくてはいけない。ゼロからコンピュータを作る知識なんて俺にはないので、これを再現するのはもう少し先の話になるだろう。


「あと現代戦車に特徴的なのが複合装甲と滑腔砲なんだが……滑腔砲はともかく、複合装甲はまだ作れそうにない」

「セラミックスとか使ってるんだっけ?」

「……らしいが、詳しくは知らん。あと成形炸薬弾とかAPFSDS弾に対する防御力は高くても、通常の砲弾に対する防御力は圧延鋼板のほうが高いって聞いたことがある」


 兵器開発というのは基本的に新技術同士のいたちごっこなので、敵の新技術対策に特化した結果、かえって昔よりも防御力が落ちたりすることもないわけではないのだ。そのあたりの事情は技術者でも軍人でもないので流石に詳しくは知らないが。


「じゃあやっぱり七四式じゃない? 丸くてちっちゃくて可愛いし!」

「確かにあれなら第二.五世代戦車としてはかなりの重装甲だし、火力も申し分ないな。何より不整地における走破性能が高いのは魅力的だ」

「足回りが強いのは、戦後日本戦車のお家芸みたいなもんだしね」


 その極致が一〇式戦車の「殺人ブレーキ」や「ドリフト走行」だったりするのだが……まあいずれそれらも再現できたらいいよな。


「とりあえず、まずは七四式戦車をベースに色々とオリジナルの改造を施していくとしよう。他にも装甲車や装輪車なんも作ってみようか」

「そうだね。都市部なら装輪車、荒地なら履帯車輌って感じに住み分けしてもいいんじゃないかな」


 整地・舗装された道路の上を走るなら、タイヤのほうが絶対に効率が良いから装輪車の開発は絶対に外せない。かといってこの広い沖田平野をカバーしきるには、履帯キャタピラ車輌が不可欠だ。


「さあ、早速戦車開発といこうか。まずはパワーパックだが……これはディーゼル機関で良いか」

「車体の基本構造は弄らなくていいと思うよ。けど武装は弄りたいなぁ」

「レールカノンか。それだとディーゼルエンジンじゃ出力が足りないから、別途バッテリーを搭載する必要があるぞ」

「じゃあエンジンも全部ひっくるめてバッテリーで動くモーターにしちゃう?」

「それがいいだろうな。そうなるとまずはやはり発電所が必要になるんじゃないか?」

「うーん、じゃあ前言ってた核融合発電所でも作るの?」

「ああ。通常の原子力発電所だとトラブルが起きた時に対処が難しいからな。核融合炉なら、何か起きたとしても原理上必ず炉が停止するから問題はない筈だ」

「核融合炉かぁ。機動戦士みたいだね……」

「流石にあそこまで小型化するのは難しいから、まずは世界の研究機関で主流になってるトカマク型を採用しようと思っている」


 戦車を作る筈が、だんだんと都市のインフラに話題が移っていく。だが、話しながら俺は内心で納得していた。

 確かに一度、強力なエネルギーシステムを作ってしまえば、兵器開発も都市開発も何もかもがうまくいくのだ。


「よし、決めた!」

「何をさ」

「戦車開発と並行して、核融合炉の開発も行う!」

「大丈夫かなぁ……」

「為せばなる。為さねばならぬって言うだろ」

「まあ、そうだね。じゃあ私は機甲部隊の運用戦術でも練ってようかな」

「いや、できれば核融合炉が完成した後の都市計画について考えたいから、そっちを手伝ってほしい」

「ん、わかった」


 さてと。核融合炉となると現代科学ですら未だに実用化はできていない完全なる近未来の新技術だ。【SF】が現代科学を超えられるか否かが、この核融合炉の開発に懸かっていると言ってもいいだろう。


「俄然ワクワクしてきたぞ」

「ようやくザ・SFって感じになってきたね」

「ああ」


 作業用デスクに紙を広げて図面を引く。真っ白な紙に、まだ見ぬ未来が描かれてゆく。さあ、俺の時代が始まるぞ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る