第13話 戦闘力強化

「叶森。現状の俺達は非力だ。もし仮に地球には存在しないようなヤバい魔物が出てきたら、俺達はなすすべもなく殺されてしまうに違いない。この家だって石膏ボードでできた普通の民家だ。熊でも来たら簡単に壁なんて壊されるだろう。抜本的な戦闘力の強化が必要だ」


 さして広くない室内をぐるぐると歩き回りながら、そんなことを話す俺。叶森はといえば、ベッドの上で枕を抱っこしてウンウンと頷いている。


「まず大前提として、私を強化するなら銃火器系統だよね」

「【銃士ガンナー】がどこまで効果を発揮するのかについてもいずれ検証する必要があるな。具体的には、銃と同原理の大砲も必ず命中するのか、そしてミサイルのような似て非なる兵器も問題なく運用できるのか、の二点だ」


 もし大砲やミサイルにも【銃士】の『恩寵グレース』が効果を発揮するとしたら、強化方法の選択肢がグッと増えることになる。そうなればたとえ国が相手でも余裕を持って立ち回れるようになるかもしれない。


「加えて、ここはまだ王都からそれほど離れていない。いずれルシオン王国の連中に発見されたら厄介なことになるだろうから、あまりこの場所に長居するというのも望ましくないな」

「他の追放された人達はどうなるの?」

「皆、バラバラに追い出されてしまったからな。回収するにしても、簡単にはいかないと思うぞ」


 とはいえ、彼らを見捨てて俺達だけでどこかへ逃亡するというのはできるだけ避けたい。元は同じ学校に通っていた身内なのだ。

 それに、基本的な倫理観を共有する日本人が仲間になることのメリットは大きい。俺達の最終目標である建国を成し遂げるという意味でも、無限の可能性を秘めた『恩寵』持ちは多ければ多いほど良いだろう。


「まあ、回収する上でも戦力の強化は必須だな」

「立場的には私達が上じゃないと、色々とやりづらそうだもんね」


 建国するということは、俺か叶森が国家元首になる可能性が非常に高いということだ。もちろん民主主義を否定するつもりは毛頭ないが、ルシオン王国のような現地勢力に対抗できるようになるまでは開発独裁のようなこともやむを得まい。

 そんな中で、俺達に異論を唱えるだけ唱えて従わない人間がいたらぶっちゃけ面倒以外の何物でもないだろう。だから仲間を回収はするが、あくまで俺達のほうが発言権は強い状態を維持したい。これは集団をまとめ上げて建国という目標を達成するためには必要不可欠な要素だ。


「ねえ進次、私って撃ったら一〇〇%敵に命中するわけじゃん」

「そうだな」


 枕を抱っこしたままゴロゴロ寝転がる叶森。さりげなくチートな発言だったが、特に気にするでもなく彼女は続けて言う。


「だったら無闇に弾幕を張るよりは、一撃必殺級の大威力で敵を葬り去る方向で考えたほうが賢明だと思うんだよね」

「なるほど……なら作るべきは対物狙撃銃アンチ・マテリアル・ライフルか」


 対物狙撃銃から発射された弾丸の運動エネルギーは非常に大きい。人体はもちろん、塀なんかに使われるコンクリートブロックや、二、三センチはあるような鉄板でさえ軽々と撃ち抜いてしまうのだ。これを喰らって生存できる地球上の動物を俺は何一つ知らない。


「うん。それで、ここは地球じゃないわけでしょ。現代兵器よりも強力な対物狙撃銃が作れると思うんだよね」

「なるほどな。地球製のものを遥かに超える大威力を秘めた携行可能な銃器か。……それはこちらにとって相当なアドバンテージになるぞ」


 そうと決まれば早速、構想を練ろうじゃないか。


「複雑な理論構築の要らないお手軽なSF兵器といえば、やっぱり王道はレールガンだよな」

「電力源をどうするかって問題はあるけど、威力と実現可能性を鑑みたらそれが一番良いと思うな」


 俺と叶森の意見が一致したので、叶森が持つ新武装の基本路線はレールガンで決定だ。


「加速機構は普通に電磁石でいいだろう。問題はやはり叶森の言った通り、電力源だな」


 レールガンの起動には莫大な電力エネルギーが必要になる。既存の電池でそれを賄うのは少々難しい。


「なんだっけ、あの……電気自動車とかに使われてるやつ」

「リチウムイオン電池か?」

「そう、それ! あれならだいぶ電気貯められるんじゃないの?」

「うーん、確かに電力面だけを見るならそれでいいかもしれないんだが……リチウムイオン電池は安全性に不安があるんだよな」


 充分に安全な場所で運用する分にはまったく問題ない立派な電池なのだが、銃のように常に高温・衝撃にさらされる環境下での運用は爆発炎上の危険性をどうしても排除できないのだ。


「うーん、でも車に載っけても大丈夫なんでしょ?」

「大事故を起こさない限りはな」


 まあそもそもそんな事故を起こした時には、リチウムイオン電池がどうこう以前に普通に大怪我しているに違いないんだろうが。


「じゃあさ、とりあえずリチウムイオン電池を載っけると仮定して、危険じゃない運用法を考えてみようよ」


 叶森の言うことはもっともだ。リチウムイオン電池にとって代わる選択肢がない以上は、なんとかしてこれを安全に運用するしか方法はない。


「まず、高温がだめなんだよね?」

「ああ。あと衝撃も、だな」


 銃を撃ったその反動で燃えるなんてことがあっては困る。


「今考えたんだけどさ、銃床ストックの中に綿とか詰めて、そこに電池入れたらどう?」

「綿って」


 あまりにも荒唐無稽な発想に思わず突っ込んでしまった俺だが……冷静に考えてみれば、確かになかなかアリな考えかもしれない。銃床の部分なら銃身からは離れているから熱の心配はないし、肩で衝撃の大部分を受け止めるから振動で亀裂が入ったりする心配も少ないだろう。銃床を武器にして敵を殴ったりしなければ、問題はない筈だ。


「案外、それいけるかもな。試しに作ってみるか」


 もし駄目そうであれば、大人しく火薬式のものを作ればいいだけだ。試すだけならやってみるに越したことはない。


「よっしゃ! 楽しみになってきたよ!」


 ベッドの上でビョンビョン跳ねる叶森。可愛いんだが、スプリングが傷むから正直やめてほしい……。






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