第12話 食料ゲット
「叶森、見えるか?」
「うん、見えるよ。あれは……ネズミ?」
「にしては随分とデカイが、まあシルエットはそうだな」
もっとも、そのネズミモドキには巨大な角が二本ほど生えているわけだが。
俺達は今、新築のSFハウスから一キロほど離れた場所にある森にやってきていた。規模としてはかなり小さく、日本の住宅街に突如として現れるふれあいの森くらいのものだ。大きめの林と言い換えてもいいかもしれない。
ただ、ふれあいの森と違って林道が整備されているわけではないので、森の中に入っていくのにはそれなりに苦労した。都会のもやしっ子とまでは言わないまでも、所詮は首都圏郊外の人口密集地住まいだった俺達である。歩き慣れていない大自然に適応するにはまだもう少し時間が掛かるに違いない。
「狙えるか?」
「私を誰だと思ってるの?」
「カッコいいセリフだ」
一度は言ってみたいセリフ集の三ページ目くらいには出てきそうだな。
「それじゃあいくよ」
そう言って叶森は、昨日創造したばかりの拳銃を両手に持って構える。ミリタリーオタク気味の叶森らしく、ちゃんと銃の持ち方がウィーバースタンスと呼ばれる型のそれだ。
――――ズドォンッ
「ピギッ」
「お見事!」
「食料ゲットだね!」
俺達の隠れている茂みから五〇メートルほど先にいた全長四〇センチはありそうな巨大ネズミが、頭から血を噴き出して倒れる。これだけ距離があって拳銃で仕留めるとは、やはり【
「早速朝メシにしよう」
「私そろそろ限界……」
「俺もだ……」
こうして異世界初の食肉をゲットすることに成功した俺達であった。
✳︎
「それでは投入します」
「う、うん……」
ごく、と緊張で息を呑む叶森。俺達の目の前には、ウィンウィンという機械音を立てる培養肉製造機が口を開けて待機している。この投入口に先ほど獲れたばかりのクソデカ角ネズミをぶち込めば、あとは自動で俺達に馴染みの深い培養肉が生成されるというわけだ。
「うまくいくといいんだが……」
「失敗したら、最悪さっきのネズミをまた捕まえてくればいいよ。焼けば多分食べれるでしょ」
「まあな」
俺達がこうして培養肉を作ろうとしているのは、万が一に備えているからだ。流石にいくら異世界産の生命力激強寄生虫とて、摂氏数百度の火で炙れば死なない道理はない。というかそれで死なないとしたら、この世界の物理法則は終わっている。人類なんて繁栄する余地もなく猿の段階で絶滅しているだろう。
「じゃ、入れるぞ」
投入口からネズミを入れると、バキバキグシャアメキメキ……ブジュッ……というたいへんスプラッタな音を立てて培養マシンが震える。
「うぐ」
「いやぁあああ」
そうだよな、分子レベルで分解するにしても、まずは全身ミキサー状態にしないといけないもんな……。これ、仮にちゃんとした肉が出てきたとして、食べられる精神状態でいられるかな……。
そんな俺達の不安などつゆ知らず、数分の後にペトリと受け皿に落ちたお肉は、たいへん見覚えのある美味しそうな豚バラ肉へと変化していたのだった。
「普通にうまそうじゃねえか」
「全然食べれるや」
異世界二日目にして初の食事は、最高級国産豚バラ肉もかくやと言わんばかりの焼肉(塩のみ)だったとさ。
✳︎
「お肉、おいしかったね……」
「ああ、うまかった……うまかったのは良いんだが、流石にこの量は胃もたれするな……」
バラ肉というくらいだから、脂身もそれなりにあるわけで。腹が膨れるまで食べたらそりゃあ胃もたれもする。
「けど、欠けると即命にかかわる食と住の問題が解決したのはかなりデカいな」
「これで生存にリソースを割く必要がある程度減ったもんね。ここからの進歩は早いんじゃない?」
今までは生きるために必死だったが、生活に余裕が生まれたおかげで余った時間とMPを戦力の強化に充てることができる。それを繰り返していけば、割と近いうちに最終目標である国家の建設も叶うかもしれない。
「あっ、なんかMPが回復してる」
「何? ……本当だ。今なら家一軒に加えて、納屋まで建つぞ」
昨日は体力も精神力も何もかも足りていない状態で色々と検証をしていたが、一晩寝てある程度回復し、更に食事を摂ったことで空腹感も治まったからか、だいぶMPが増えていた。
もちろんゲームの世界ではないのでホログラムウィンドウのようなものに数値が表示されるようなことはないが、なんとなくどのくらいの余力があるのかは体感でわかるようになっている。昨日はたくさん『
「何か新しい武器、作っちゃう?」
「特に緊急でやらなきゃいけないこともないし、そうするか」
つい今しがた生産が終了した培養肉は、可食部位だけでも数キロ以上はある。残りは培養マシンの貯蔵タンクにて冷蔵保存だ。腐る前に食べきらないとな。
「冷凍庫とか作ったほうがいいかもね」
「それはまた今度だな。今は武器を作りたい気分だ」
昨日は何事もなく夜を過ごせたが、もしかしたらヒグマ級の激ヤバモンスターが扉をぶち破って侵入してくるかもしれないのだ。防衛力の強化は不可避である。あと単純に楽しい。
「そうだね。何作ろっか」
「悩むな……」
やることを終えたからか、お互いにかなりノリが良い。異世界に来てまだ二日しか経っていないとは到底思えない余裕っぷりの俺達であった。
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