第11話 食料問題、解決?

「進次〜。起きろ〜」


 ユサユサと肩を揺さぶられる感覚で目を覚ました。窓から差し込む明るい日差しが、徐々に意識を覚醒させる。


「うん……? なんで叶森が?」

「昨日一緒に寝たの、忘れたのか」

「何? 俺と叶森が一緒に寝た? いつの間にそういう関係に……というか待て、どこだこの部屋は。知らない天井…………あー、思い出してきたぞ」


 寝ぼけてすっかり慌ててしまった俺だが、ようやく頭がはっきりしてきて昨日の出来事を少しずつ思い出す。

 そうか、ここはもう日本じゃないんだ。頼るものは何もない、過酷で危険な異世界の地。そこで俺達は無事に一晩を明かした。――――同じ布団で。


「あー……」


 昨日はそれどころではなかったのでまったく意識していなかったが……恋人ではない男女が共同生活を送る上で、一つ問題が発生することを忘れていた。


「進次? もう朝だよ、布団から出ようよ」

「あっ待て、叶森。今はまずい」

「?」


 ガバッと布団を引っ剥がした叶森は、を発見した途端フリーズし、やがて茹で蛸もかくやと言わんばかりに赤面する。


「わ……わ……っ!」

「落ち着け、叶森。これは生理現象だ」


 見事にテントを張った俺の下半身が、異世界の朝日を浴びてキラキラと輝いている。流石にズボンは履いていたので、大惨事にならなかったことだけが幸いだ。


「あ、朝ごはん! 朝ごはん食べたいな! 昨日から何も食べてないからお腹減ったなー、あははっ!」


 テンションがおかしい叶森が布団を振り回して叫んでいる。そんな彼女に俺は一言。


「布団、返してくれ」

「うん」


 とりあえず治まるまでは待機だな。


     ✳︎


「さて、一晩寝たことで無事MPも回復したことだし、【SF】で色々と創造できるようになったわけだが……」

「肝心の食料をどうするか問題だね」


 先ほどは一悶着あった俺達だが、そこは長年の付き合いだ。あえて意識しないようにしつつ、努めて冷静に目の前に立ち塞がった問題に考えを馳せる。


「まず、この世界で生活している人間がたくさんいる以上は、そこらへんにいる小動物を捕まえて食べるのが普通だとは思うんだが……俺達は地球出身だ。異世界の寄生虫や細菌に対する知識や耐性がまったくない。いきなりこれを口にするのは少し危ないかもしれない」

「そうだね。火を通せばいけるとは思うけど、そこは私もちょっと不安だな」

「というわけで、昨晩寝る前に少し考えていたことを試してみたい。もしかしたらMPを無駄にしてしまうかもしれないんだが、それでもいいか?」


 あくまで俺個人のMPではあるが、共同生活を送っている以上は、事実上二人の共有財産だ。資源が限られている内は、お互いの合意のもとで使い道を考えたほうがトラブルの原因になりにくい。


「うん。やってみないとわからないことだらけだし、それしかないと思う。……で、具体的には何をするの?」


 叶森の了承を得られたので、俺は自分の考えを説明する。


「いくら世界がまったく異なるとはいっても、流石に物理法則までもが違うわけではないと思うんだ。太陽はちゃんと存在しているし、土も植物も人間も、地球のそれと見かけ上は何も変わらない。つまり、物質の分子構造まで地球と違うとは考えにくい」

「うん」

「そこで、SF作品によく登場する『分子変換人工肉製造機』を作りたいと思う」

「えーと、いわゆる培養肉的なアレ?」

「そういうことだ」


 これには複雑な科学設定は必要ない。タンパク質や脂質なんかの構成成分はそのままに、配列や比率を少し弄ってやるだけだからだ。エネルギー源は太陽光発電とかで充分だろう。幸い、この世界にも太陽は存在している。


「まずはそのへんでなんとかして小動物を捕まえる。で、捕まえた小動物をそのまま焼いて食べるんじゃなくて、培養マシンに投入して俺達の知ってる肉……豚肉とかに変えるんだ。それなら問題なく食べられると思わないか?」

「良いと思うよ。それってどのくらいMPを消費するのかな?」

「わからん。だが、おそらく家を建てるよりは少ない筈だ」


 家はかなり大質量だからな。消費MPも相当大きかった。


「とりあえず、理論設定は夢の中で済ませておいた。自分の中で気になる疑問点も特にないし、問題ないと思う」

「じゃあ、やってみよ!」

「おう」


 俺は食肉加工工場にありそうなゴテゴテした機械をイメージしつつ、その機能の裏付けとなる設定を詳細に練り込んでいく。構造は単純だ。必要な栄養分だけを取り出して分子レベルで配列を並べ替え、要らないものはまとめてポイするだけ。


「――――【SF】、発動!」


 ピカーッと俺の手が光り、MPを消費して培養肉製造機が組み上げられていく。MPの流れも正常だ。特に滞っている様子もない。

 そのまま二、三分ほど経っただろうか。光が収まって、床にはやや大きめな電子レンジサイズの機械が鎮座していた。


「できたぞ」

「……ちゃんと使えるかな?」

「失敗した感触はなかったから、多分使えるだろう。けど実際にやってみないことにはなんとも言えないな」

「よし! じゃあ早速、小動物を捕まえに行こう!」


 昨日創造した拳銃を腰に下げて、腕まくりする叶森。【銃士】の技量があれば、小動物を見つけられさえすればまず間違いなく食事にはありつける筈だ。


「頼りにしてるぞ」

「任してよ」


 俺達は腹を鳴らしながら、朝日輝く野外へと繰り出した。




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