第10話 同衾⁉︎
「そうと決まれば、まずは手始めに重武装だな」
叶森に続いてシャワーを浴びてさっぱりとした俺は、ベッドに腰掛け、腕組みしながらそう宣言する。
「重武装って、戦車でも作るの?」
そう訊ねてくるのは、今度はちゃんと服を着た叶森だ。心なしか距離が少しだけ遠いような気がする。
「いや、流石に戦車はまだ作れない。必要になる科学設定とMPが多過ぎる」
第一次世界大戦時代の菱形戦車みたいな原始的なものであれば不可能ではないだろうが、それでは馬に乗った騎兵が数十人もいれば囲まれてしまうに違いない。
複雑な先進技術をふんだんに盛り込んだ現代戦車なんて、今はまだ夢のまた夢だ。
「だから基本は歩兵でも携行可能な軽火器を中心に装備する方針でいこう」
「確かに、それなら私の【
銃の存在しないこの世界において、叶森の【銃士】は限りなくチートだ。何しろ向こうの弓矢や魔法の射程圏の遥か外側から一方的にタコ殴りにできるのだから。
加えて、命中率は決して高くはないとはいえ、弾をバラ撒いて弾幕を張るくらいのことは俺にだってできる。それだけでも生存率は随分上がるだろう。
「銃が効かない相手が出てきたらどうするの? ドラゴンとか……」
「そういうのが出張ってきた時のために、対戦車ミサイルとかも用意しておきたいな」
幸い、二人ともミリタリープラモデルオタクとして第二次世界大戦から現代までの兵器知識は多少なりとも備えている。足りない部分はお互いに補い合えばいいし、それでも駄目ならオリジナル理論で補完してやればいいだろう。
それを繰り返していけば、いつかはきっと宇宙戦艦だって建造できる筈だ。
「じゃあ早速何か作ろうよ」
「いや、待ってくれ」
「どうして?」
不思議そうに首を傾げる叶森。俺はそんな彼女に、事実を淡々と説明した。
「MPが足りない」
「ああ」
というわけで、色々と理不尽に巻き込まれた今日ではあったが、これでようやく一日が終了だ。
「寝るか」
明日は朝一で食料調達に励まなければならない。もう既にだいぶ腹も減っている。
「あの……」
おずおずと手を挙げる叶森。
「なんだ?」
「ベッドが、その、一つしかないんですが」
「……そういえばそうだな」
仕方あるまい、ここは男の俺が大人しく床で寝るか……。
「MPが足りないから新しく作り出すこともできないしな……。俺が床で寝よう」
「いやいや! 進次がいなかったらこの家はなかったんだから、進次が使いなよ」
「そうは言っても、叶森は一応女の子だしな」
「一応って!」
お互いに(相手の)ベッドの所有権を譲らない俺達。……こうなったら折衷案だ。
「一緒に寝るか」
「ふゃっ⁉︎」
尻尾を踏まれた猫みたいな声を出して座ったまま飛び上がる叶森。それ、どうやってるの?
「一つしかないんだから、それしかないだろ。それとも嫌か?」
そもそもベッドには一人で寝なければいけない、なんてルールはないのだ。お互いが許すならそれだけで解決だ。寝相は良いほうなので、快適な睡眠環境を保証しよう。
「あぅ、や、別に、嫌じゃないけど……」
もじもじしながら煮え切らない態度を取り続ける叶森。
「ならそれで決定だな。明日も早いし、もう寝よう」
そう言ってベッドに寝転び、外側を向く俺。そのまま電気を消して目を瞑る。だんだんウトウトしてきたあたりで、ようやく隣に温かい感触がもぞもぞと侵入してきた。
そこまで広いベッドではないので、背中同士が軽く触れ合う。
「……私達、生きていけるかな?」
消え入りそうな声でボソリと呟く叶森。背中越しに感じる身体が小さく震えている。
俺は身体の向きを変えて仰向けになると、叶森の肩をそっと叩いてやりながら言った。
「大丈夫だ。俺達ならきっとやっていけるさ。……明日、早く起きて食料をちゃんと調達して、それを証明しよう」
「ん。……ありがと、おやすみ」
「ああ。おやすみ」
こうして、これまでの人生でもっとも(悪い意味で)濃密だった一日が終わり、俺達は眠りに就いたのだった。
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