第9話 よし、建国しよう
「私達の愛の巣だね、進次」
「お前、軽率にそういうこと言ってたらその内襲うからな」
「えー……、生活基盤もまだ整ってないこの状況で妊娠は流石にちょっと困るかな……」
いや、ちょっとどころではなく困る話だと思うんだが……。もちろん妊娠が駄目だと言いたいわけではなく、普通ならたいへんおめでたい話ではあるんだが、それとこれとでは話が別だ。
とにかく叶森の冗談は割と笑えないレベルでキツいと思う。少なくとも、
というかこいつ、対人スキルはそこそこ高いし性格は悪くないし、悔しいことに顔も割と良いしで、何故俺のような陰キャラとつるんでいるのか割と本気で謎なくらいには勝ち組の要素を備えている奴なのだ。しかも比較的低身長で
その割には男っ気がないというか、叶森の恋愛的なあれそれを聞いたことは噂レベルでもないんだが……まあ、そんなことはどうでもよろしい。とにかく、今は「衣食住」のうち「住」が改善されただけでも良しとしよう。
「安心したらお腹減ってきちゃった……」
「俺の『
「うーん、まあ一日くらいは我慢できるかな」
ちなみに飲料水だけは確保できている。家を創造した時に水道の機能もついていたからだ。いい加減喉も渇いていたから、これには非常に助けられた。人間、数日何も食わなくても死にはしないが、脱水症状になったら余裕で死ねるからな。
「シャワーってついてる?」
「一般的な平屋建築をイメージして創造したから、一応あるぞ。狭いけど」
「じゃあ、悪いけど先に浴びちゃっていいですか? さっきの検証でちょっと汗かいちゃって……」
「あ、ああ」
そういえば外にいた時は気にならなかったが、確かにこうして密室に二人でいると叶森の女の子らしい香りが若干するな。ほんのりと甘くて、否が応でも叶森が女の子であるということを意識させられる……。別に嫌な臭いでは決してないんだが、これは確かに思春期男子には刺激が強すぎるな。
「お先失礼しまーす……。あっ」
「どうした?」
「覗くなよー」
「覗かねえよ」
覗きたいけどな!
……ザーというお湯の流れる音が聞こえてくる室内で、俺はそれを努めて意識しないようにしつつ、今後のことを考える。
俺達が召喚されたこの世界は、地球とは比べ物にならないくらいに危険な場所だ。幸いまだ魔物の類には出くわしていないが、現在進行形でこの国は戦争中だし、仮に平和になったところで雇用保険やら何やらといった社会保障制度が整っているわけではないのだ。
俺達を拉致しておきながらたった金貨三枚を渡しただけで何もない場所に放り出しやがったことからも、人権意識の低さは想像に難くない。この世界には、俺達が安心して過ごすことのできる場所は存在していないのだ。
「これも運命だと受け入れるか、それとも抗って自由を手に入れるか」
以前までの自分なら、諦めて何もできない自分と世界を恨んで野垂れ死んでいたかもしれない。だが、今の俺達には『恩寵』という計り知れない力が備わっている。
そして何より、俺は――――一人じゃない。一人ではできないことでも、二人で力を合わせればできる可能性はぐっと上がるのだ。
荒唐無稽な目標かもしれないが……俺は、この世界に俺達の居場所を作りたい。誰にも邪魔できない、帰るべき場所を作りたい。
そのためには何をするべきだろうか。強くなって戦争に協力して、この国に恩を売るか?
否だ。断じて否だ。一度俺達を見捨てた国に媚びへつらうようなことだけは絶対にしたくない。
……ではどうしたら良いだろうか?
国家という存在は強い。一人では無力な人間が二人になればぐんと強くなるように、人間の群れの最大規模とでも表現すべき国家は途方もなく大きな力を持つ。そんな国家――――ルシオン王国が俺達を害そうとしてくるならば、それに立ち向かうには同じくこちらも国か、少なくともそれに準じるだけの組織でなければならない。
「……国を作ればいいのか?」
原始時代、人はより大きな力を手にするために部族単位のムラ社会から国という概念を発達させてきた。人類の歴史とは、すなわち国の歴史だ。国とは、人類が長い時間の中で試行錯誤しながら少しずつ発展させてきた科学の産物。【SF】で創造できない道理はない。
「よし」
ぱしん、と膝を叩いた俺は勢いよく立ち上がってシャワールームへと向かう。
「叶森」
「えっ、し、進次⁉︎」
ちょうど風呂から上がったところなのか、髪から水滴を滴らせて驚きの表情でこちらを見てくる叶森。俺はそんな彼女に思いきって提案した。
「一緒に建国しよう」
突拍子もない内容だということはわかっている。だが、それが一番俺達が自由で幸せになれる道だと思うのだ。
大丈夫、俺達には強い力がある。それを駆使して、絶対に最強国家を作ってやろうじゃないか。
「……」
俺の発言を聞いて、叶森は黙ったままでいる。彼女なりに思うことはあるだろう。もちろん俺一人で決めるわけにはいかないから、叶森の意見もしっかりと取り入れないとだな。
「……確かに、私達にとって一番良い選択肢はそれだと思うよ。でもね」
「でも?」
そこで叶森は、顔を真っ赤にして叫んだのだった。
「こっち見んなバカぁ〜〜〜〜っっ!!」
「あ、悪い」
建国のことで頭がいっぱいで、叶森が裸だということをすっかり忘れていた。
彼女の白く柔らかそうな肌は、それはもうたいへん扇情的であったとだけ記しておく。
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