第8話 叶森との腐れ縁は続く
と、まあこんな風に諸々の検証を終えた俺達。
「なんか……ちょっとだけ希望が見えてきたね……」
「そうだな、これなら誰にも頼れないこの世界でもなんとか生きていけるかもしれないな……」
いきなり異世界に拉致されたと思ったらわかもわからない内に正体不明の『
安心したからか、急にどっと疲れが出てくる。
そうだよな。飲まず食わずの状態で、ぶっ続けで何時間も検証作業に勤しんでいたわけだもんな。そりゃあ疲れもするか。
空腹と疲労で思わずその場にへたり込む俺達。背中合わせに肩を預けあってお互いを労う。
「何はともあれ、お疲れ様だ」
「お疲れ〜……。こんなに疲れたのって、何年ぶりだろ……」
俺は少なくとも中学時代の山登り以来だな。当時からオタク気質のあった俺にとって、野外での過酷な運動は精神と肉体に破壊的なダメージを与えたものだ。
おかげでますますオタク趣味に拍車が掛かり、叶森の家に入り浸りになったのは今となっては懐かしい話だ。
「……親父さん、元気にしてるかな」
「たぶんねー……。今頃私達がいなくなって寂しがってると思うよ」
「そうか。……またプラモデルを買いに行きたいな」
「進次は若いのにプレミアついてるような大昔の絶版プラモを買っていってくれるから太客なんだ、ってお父さん言ってたな〜」
そう。何を隠そう、この叶森柚希乃という女は、俺が贔屓にしていた模型屋の娘なのだった。父親の影響で既にSFアニメにどっぷり浸かっていた俺は、中学一年の頃から足繁く叶森模型店に通っては宇宙戦艦や人型機動戦士のプラモを買っていたものだ。
しかも、そこから派生して大戦期の戦車に軍艦、戦闘機に、現代兵器やスーパーカーの模型にまで手を出したりもしていた。おかげさまでただでさえ少ない小遣いのほぼすべてが叶森模型店の売上に結び付くという、太客も太客のムーブをかましていた俺である。少なくとも学生客の中では一番のお得意様だったに違いない。
叶森も模型屋の娘なだけあってプラモ製作にはなかなか詳しく、お得意様の縁もあって放課後家に上がり込んでは叶森に色々と技術を教えてもらったりしていた。高校に入ってからもたまに一緒に作っていたくらいには仲も良かったりする。
そんなわけで学校でもしばしば行動を共にしていた俺達だが、まさか異世界に来てまでこの腐れ縁が続くとは思ってもみなかった俺である。
「この調子だと、まだあと何年かは一緒にいそうだな。俺達」
「進次といると少なくとも退屈はしないからね。まあ末永くよろしくお願いしますよ」
それもまあ、それまでお互い死なずに生きていられれば、の話だけどな。医者も警察も消防もいなければ、電気も水道も家すらもない現状で、どれだけ長生きできるだろうか。
普通ならここで絶望して何もかもを諦めてもおかしくはない。だが、俺達には『恩寵』がある。加えて言えば、俺達は一人じゃない。
この腐れ縁が続く限りは多分死にはしないんだろう、という直感に近い奇妙な希望的観測を胸に抱く俺であった。
✳︎
「ねえ進次さぁ、【SF】って言ってはいるけど、要するに自分なりに理屈さえ通ってりゃなんでも出せる便利な魔法みたいなもんなんでしょ?」
某青狸型スーパーロボットの真似をして制服のポケットをガバガバ広げながらそう訊ねてくる叶森。まあ言わんことはわからんでもないんだが、なんかその表現には納得がいかないなぁ……。
「その理解で不都合はない。……絶妙に気に食わないが」
なんでよりによってその表現なのさ、と思わなくもない。
「だったらさ、家とかも出せるじゃないの?」
「その発想はなかった」
そうだよな。家だって、言ってみれば科学の生み出した発明品なんだ。原始人は洞窟に住んでいたし、古代人は竪穴住居に住んでいた。現代人は断熱性・難燃性に優れた耐震構造の鉄筋コンクリート住宅に住んでいるが、ひょっとしたら未来人は核ミサイルの直撃にも耐えるような究極のお家に住んでいるかもしれないのだ。
これはもう明らかに科学の産物。すなわち、【SF】の範囲に含まれる。
「がんばれっ、進次! ふぁいとっ、進次!」
「ぬぉおぉおぁあぁあぁ〜〜〜〜っ!!」
全力で必死こいて【SF】を発動した結果、こじんまりとはしているが充分に立派な戸建て(平家物件、庭なし)が無事建ちましたとさ。
突如として王都郊外の大平原に現れた現代家屋。普通に考えて怪しすぎる気もするが、どうせ長居するわけでもないのだ。気にせず中に入って休むことに決めた俺達であった。
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