第7話 検証結果は「チート」
「ええい! うだうだ悩んでいても何も始まらん! 『
幸か不幸か、もうここには俺達を監視する兵士は一人もいない。まあ兵士どころか人っ子一人いないから、助けを乞うことすらできないわけだが……。
「そ、そうだね。もしかしたらなんとかなるかもしれないし!」
すっかりテンションのおかしくなってしまった叶森も同調する。ここまできたらお互いに一蓮托生、片方の死がもう片方の死を意味するのだ。もう破れかぶれでもいいから必死に可能性を探すしかない。
「よーし、まずは『恩寵』の使い方だ。発動方法すらわからないが、色々試してみよう」
「う、うん」
――――そうしてあれこれ試してみること数時間。
「なるほどな、少しずつ【SF】の使い方がわかってきたぞ」
この【SF】という『
まず頭で『恩寵』の発動をイメージ。そうするだけで、自然と発動の感覚がフワッと脳裏に浮かんでくる。
次に発動したい具体的な内容をイメージだ。ここで少し検証に手間取った。何をイメージしても上手いこといかないのだ。
そこで、色々なパターンを試してみた。【SF】というくらいだから、まず真っ先に思い浮かんだスーパーロボットの召喚は当たり前だが不可能だった。『恩寵』がウンともスンとも反応を示してくれない。仕方がないのでうんとグレードを落として、自分でも多少は知っているライターの仕組みを思い浮かべてみると、ようやくそこで【SF】が発動する兆しを見せた。
「火が! 火がついたぞ叶森!」
「おおおおおおっ、ライターだ! 文明の利器だよ進次ぃ!」
これで寄生虫まみれの生肉に齧り付く心配はなくなったな。
次に、漠然とビームサーベルを思い浮かべて【SF】を発動してみた。しかし今度は上手くいかなかった。
そこで超強力なライターをイメージして、高温の炎で物体を焼き切る感じで【SF】を発動してみると、今度はちゃんと再現できた。
こんな感じで色々と実験を繰り返す内に見えてきた法則がある。
それは、一言にSFといっても何でもかんでも自在に生み出せるわけではないということ。生み出せるものには制限があった。ポイントは、自分の頭の中である程度の科学理論……というか理屈が通っているか、いないか、だ。
俺はあくまで一介の高校生なので、スーパーロボットの動力源だとか、ビームサーベルの原理なんてものはまったく知らない。だからただ単に作りたいものをイメージするだけでは【SF】は発動しなかった。
だが、ライターが燃える理由くらいは知っている。可燃性のガスを圧電素子や火打ち石なんかで着火してやればいいということくらいなら、ライターを分解した経験の一つや二つあれば誰だって知っていることだ。
ただ、繰り返すようだが俺はただのSF好きの高校生だ。ライターに使われている可燃性ガスの分子構造やら圧電素子の詳細な構造なんかを知っているわけではない。
それでも【SF】は発動した。そこから、発動に大事なのは自分の頭の中でしっかりと納得のできるルールが存在しているか否か、ということに気付いた。試しに何も考えずにただライターのシルエットだけをイメージしてみたら、案の定【SF】は発動しなかった。逆に一度目は失敗したビームサーベルの時も、自分なりに理解できる範囲内で理屈を考えたらちゃんと発動して生み出すことができた。
だから、【SF】の発動に必要な要素が「自分なりのSF理論」という仮説はおそらく真実だ。逆説的に言えば、この「自分なりのSF理論」さえ組み立てられるなら科学的には間違っていても【SF】が発動するのではないだろうか。言い換えれば、妄想しまくって設定厨になればなるほどチートできる可能性があるということだ。
……うむ、実に浪漫を感じる。
まずこれが【SF】の『恩寵』についてわかったことの一つ目だ。
二つ目は、【SF】で何かを生み出すと、生み出したもののサイズに応じてそれなりに体力のようなものを消費するということだ。厳密には体力ではないんだが、検証のための実験をする度に精神的な疲労のようなものが溜まっていくのを俺は感じていた。疲労がピークに達すると、どんなに簡単なものでも生み出せなくなってしまう。時間が経つと自然に回復するので、ゲームで魔法を発動する時に必要な魔力とかMPみたいなものなんだろう。
続いて、今度は叶森の『恩寵』、【
【SF】の効果がはっきりしてある程度の武器を生み出せるようになった俺は、叶森用に簡単な拳銃を生み出してみた。
それから『恩寵』発動の際のイメージを伝授しつつ、遠くの石なんかを狙い撃ちしてみること数十分。
叶森の【銃士】は、銃を扱う上で限りなく最強に近いチート級能力であることが発覚した。
チートその一。銃のスペックを越えない範囲であれば、狙ったところに必ず命中する。銃には最大射程距離と有効射程距離の二種類が存在するが、前者は単純に弾丸の届く最大距離、後者は弾丸が狙ったところに充分な確率で命中する距離のことを指す。
叶森の【銃士】は、その有効射程距離が最大射程距離と等しくなるという効果を持っていた。簡単に言えば、弾が届く限り一〇〇%当たるという超々離れ業を実現するぶっ壊れ『恩寵』だったのだ。
ただし、当然ながら最大射程距離が一〇〇メートルなのに一キロ先の目標を狙い撃ちする、とかは無理だった。こればっかりは銃のスペックの問題なので、どうしようもないことだ。
でもレーザービームみたいに事実上どこまででも真っ直ぐ進む銃を使えば、もしかしたらとんでもないことになるんじゃないか……ということに気付いてしまったので、いずれはそれにも挑戦してみたい。現状はそれを可能にするような高出力のレーザーを生み出せないから、しばらくは無理っぽいが。
チートその二。命中させたくないと思えば、どれだけ近くに目標があっても弾が当たらない。
これに関してはマジで意味がわからなかった。遠くの目標ならまだわかる。風に煽られたり軌道がズレたりすれば、外れるのは極々当たり前のことだからだ。
でもゼロ距離射撃で当たらないなんて、誰が予想できるよ。当たらない――――厳密には、引き金を引いても弾が発射されない。明らかに因果律とかそっち系の超常現象に干渉しているっぽい叶森の【銃士】なのだった。
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