第6話 やっぱり追放かよ!

 大広間から少し離れた、教室くらいのサイズの狭い部屋。そこに俺と叶森をはじめ、一クラス分くらいの生徒達が集められていた。皆、一様に不安そうな表情をしている。

 ……きっと外れと言われた人達だろうな。

 やがて、さっきまでとはまた別の神官が俺達に向かって威圧的に話し出す。


「ここに集まってもらった諸君には伝えなければならないことがある」


 狭い部屋に緊張が走った。もうここまできたら大体次の展開はわかる。


「我がルシオン王国は滅亡の瀬戸際にある。残念ながら、力なき者を養うほど国力には余裕がない」

「ちょっと、それってどういう意味⁉︎」

「俺達はどうなるんだ!」


 にわかに騒がしくなる室内。皆も何を言われるのか薄々勘づいているんだろう。かくいう俺もまた、次に神官が何を言うつもりなのか、確信がある。


「僅かばかりだが、当面の費用としてここに一人あたり金額三枚を用意した。これを持って城を出ていってほしい」

「そんな!」

「ま、待ってくれよ!」

「まだどんな能力かもわからないのに、それは勝手すぎるんじゃないの⁉︎」


 怒号が室内に飛び交うが、神官達は歯牙にも掛けない。


「ええい、異を唱えるなら実力行使するぞ!」


 神官のそばに控えていた兵士達が槍を持って俺達を脅しにかかる。


「っ……」

「わ、わかったよ。出ていけばいいんだろ!」


 まだ『恩寵』の使い方もわからない現状ではどうすることもできないと理解したのか、無能の烙印を押された生徒達は次々と金貨を手にして部屋を去っていく。部屋の外には兵士が控えていて、数名ごとに城の外へと連れていかれるみたいだ。


「……俺達も行こう」

「うん」


 ここにいても何も良いことはない。不安なことだらけではあるが、まずは城から出るしかないだろう。


 こうして俺達は、ものの見事に見ず知らずの異世界の地へと追放されてしまったのだった。


     ✳︎


「ねえ、進次。これから私達どうしよっか」


 俺達以外に誰も乗っていない馬車の荷台で揺られながら、そう話しかけてくる叶森。色々とあり過ぎて何がなんだかもうわからなくなっていた俺だが、一つだけはっきりと言えることがある。

 それは、ここから先は何があっても自分達しか頼りにならない、ということだ。


「そうだな。まさか本当に……それもこんな雑に追放されるだなんて俺も思ってはいなかったから、正直困惑してるところだよ」


 展開が急過ぎる。あまりにスピーディーなので、逆に感心してしまったくらいだ。


「……とりあえず、生きるための方法探しが最優先だよな」


 手切れ金とばかりに王国から渡された金貨三枚の価値がどのくらいなのかはわからないが、そう何ヶ月ももつようなものではあるまい。

 とにかく、まずは自分達で金を稼ぐ方法を見つけないとな。


「他の人達とも離されちゃったし……追放組でまとまれたら少しは楽だと思ったんだけどなー」

「それももしかしたらあいつらの策略かもしれないな。万が一、追放した人間の中に強い『恩寵』持ちがいて、そいつらが一致団結して攻めてこられたら困るだろうから」


 有用だとはっきりわかっている人間は保護するが、それ以外は迅速に切り捨てる。なんというか、そんなことをしているから国が滅びそうになるんだと思わずにはいられない。


「ねえ、進次。この馬車がどこまで行くのかはわからないけど……後で『恩寵』の検証をしないとだよ」

「そうだな。【銃士ガンナー】はともかく、【SF】にどんな効果があるのかは確かめてみないとわからないもんな」


 おそらく叶森の【銃士】は、銃火器を扱うことに特化した『恩寵』だろう。命中率向上とか、多分きっとそんな感じだ。

 まあそのへんの検証も含めて、色々とやっていかないとな。


「降りろ」


 そのまましばらく幌すらない剥き出しの馬車に揺られていると、いきなり御者の兵士にそう言われた。


「降りるって……ここで?」

「じ、冗談だよね」


 さっきまでいた街(おそらく王都とか、そんな感じだろう)は、もうすっかり遠くにある。今、俺達がいるのは周囲に家一つないような無限に続く平原。向こうのほうにチラッと森のようなものが見えるくらいだ。


「冗談などではない。ここから先は好きにしろ。ただし王都には戻ってくるんじゃないぞ」

「なっ! 戻るのも駄目なのか?」


 別に好きで戻りたいわけじゃないが、寝泊まりする宿がないと普通に死ねる。それだけは勘弁願いたい。


「くどいぞ! 殺されたいか⁉︎」


 そう槍を突きつけて脅してくる兵士。そこまでされたら、もう言い返すことは難しい。


「……いや、なんでもない」

「ふん」


 槍を下ろした兵士は、俺達を下ろすとそのまま王都へと帰っていってしまった。後に残された俺達は途方に暮れるしかない。


「あはは、なんだか荒唐無稽過ぎて逆に笑えてきちゃうよ……」

「ストレスで病んでも仕方ないし、むしろそのくらいがちょうどいいかもな」


 なんにせよ、これで俺達は二人で協力してどうにかこうにか生きていくしかなくなったわけだ。しかも金貨すら使えない原っぱのド真ん中で。


「俺、サバイバル経験なんてないぞ」

「あ、私キャンプなら昔家族とやったことあるよ!」

「もしかして火、おこせたりするか?」

「……ライターとか、持ってたりしない?」

「持ってない」

「……」


 ああ、終わった……。




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