第5話 俺達だけ毛色の違う『恩寵』だったんだが……
それから数十分以上は鑑定の儀は続いた。何せ七五四名もの生徒・教職員がいるのだ。何箇所かに分かれて鑑定を進めているとはいえ、それなりに時間は掛かる。
ちなみに性格の合わないオタク君こと小田聡は、【呪術士】という中二心に響く『
「さて、お次はそちらの君だな」
「俺か」
「どんなのが出るかな。【浮遊】とか?」
「クラスで浮いてるからな……ってうるさいわ。別に言うほど浮いてないぞ!」
精々、校外学習の班決めであぶれたり、体育祭で不人気種目である借り物競走を割り当てられたらするくらいだ。便所メシを敢行したことはまだ一度もないし、事務的な会話くらいは日常生活でもある。
「それを人は浮いていると言うのです」
「黙らっしゃい」
学業成績は上位をキープしているから別に構わんのだ。先生からの覚えだって別に悪くはないんだぞ。
「さあ、早く鑑定を」
「あー、わかった」
鑑定を担当する神官に急かされたので、渋々鑑定の儀を行うことにする俺。
……ああ、嫌だな。次の瞬間には異世界での俺の扱いが決まるのだ。日本では浮いていたからって別に命までは失わなかったが、この世界では「浮く=命の危機」である。これで緊張しないほうが難しい。
「進次なら多分大丈夫だよ」
「そうはいってもな」
叶森なら持ち前の対人スキルでなんとかしてしまうんだろうが。基本的に属性が陰キャラの俺にはそれは難しい。情けないことに俺が鑑定を躊躇していると、叶森が俺の手をそっと握って励ましてくれた。
「大丈夫。他の人が何を言っても、私は進次の味方だから」
「……おう」
叶森に背中を押されて、そっと鑑定用の魔道具的な装置に手をかざす俺。
「さて、君の『恩寵』は……うん? なんだこれは」
「なあ、俺の『恩寵』は何なんだ?」
表情が曇った神官に不安を覚え、そう訊ねる俺。ちなみに俺達の意思を無視して強制的にこの世界へと召喚してきたこいつらを敬う気は欠片もないので、俺はあえて敬語を使っていない。決して敬語が使えない系の主人公ではないのでそこんとこよろしく。
「……【SF】だ。こんな『恩寵』、見たことも聞いたこともないが……」
「【SF】?」
もしかしなくても「Science Fantasy」のSFか? それ以外には思い当たる節はないぞ。
「……過去の記録には存在しないな。効果も強さもまったく不明だ。名前からもどんな『恩寵』なのかまったく予想がつかんし……これは外れだな。まあ、希少度だけは過去に例がないからピカイチかもしれないな」
そう吐き捨てて俺から興味を失くす神官。なんだこいつ、勝手に期待して勝手に失望しやがったぞ。というかこの鑑定装置、効果の説明はしてくれないのかよ。
「ねえ、進次。【SF】って……」
「ああ、多分そのSFだと思う」
『恩寵』は本人の資質や能力、性格などから、一番マッチしているものが発現するというのが今のところの俺の予想だ。その予想が正しければ、これは間違いなく「Science Fantasy」の【SF】である。
「あー、君はもういいよ。次、そこの君だ」
「叶森、呼ばれてるぞ」
「え、あ、うん。ちょっと待っててね。行ってくるから」
そう言って神官の下へと走る叶森。さあ、あいつはどんな『恩寵』だろうか……?
「えー、君の『恩寵』は……【
【
銃を扱えるとすればかなり優良職な気がするんだが、神官の反応は薄い。もしかしてこの世界には銃火器が存在しないのか?
「さあ、では鑑定を続けよう。君、さっさと下がって」
「あっ、はい……」
すっかり俺達から興味を失くした神官にあしらわれて、こちらに戻ってくる叶森。外れと言われてしょげているかと思いきや、彼女は意外にも普通そうだった。
「ねえ、進次」
「何だ?」
「私達、他の人とちょっと毛色が違うみたいだよ」
「……みたいだな。なんだか嫌な予感がする」
この流れはたいへんよろしくない。俺達が好んで読んでいた小説を参考にするならば、この後に待ち受けているのは間違いなく追放だ。
「えー、それでは勇者の皆様! これよりお部屋へとご案内いたします!」
どうやら全員の鑑定が終わったらしい。一番格上っぽい神官のおっさんが全体に向けてそう伝えている。
「あぁ、君達は少し待ちたまえ」
何事も起こらないことを祈りながら全体の列についていこうとすると、先ほど俺達の鑑定を担当した神官が呼び止めてくる。
「何ですか?」
叶森が不安そうに訊ねているが、神官は答えてくれない。
「ついてきたまえ」
有無を言わせず、そう指示してきた神官。ここで無意味に反抗しても後が怖いので、仕方なくついていくことにする。
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※【SF】が「Science Fiction」ではなく「Science Fantasy」となっているのは仕様です。誤字ではありません!
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