第4話 『恩寵』鑑定の儀

 校長とフョードル司祭の対談が終わり、結局ルシオン王国の主張を全面的に呑まざるを得なかった我らが桜山高校。日本にも帰れず、命すら危ういという状況の中、「異世界召喚がなんだ」だの「ファンタジーがどうだ」だの騒ぐ奴はいない……かと思えば、そんなことは決してなかったのだった。

 重たい話が終われば、お次はお待ちかねの『恩寵グレース』鑑定タイムだ。この展開は俺も叶森も小説や漫画で読む分には結構好きだった部分になる。

 まあ、いざ自分が当事者になってみると心躍るなんてことはまったくなくて、ただひたすらに不安が募るだけだな。さながら試験結果の発表を待つ受験生か、あるいは刑の宣告を受ける罪人の気分だ。

 だが、世の中には空気を読めない……というか意にも介さない奴が一定数はいるらしい。同志オタクではあるものの、性格の不一致から友人関係にあるとはまずもって言い難い男、小田おださとしが飛び跳ねんばかりのハイテンションでソワソワし出す。


「きたっ、チート発覚からのヒロイン発生展開イベントだ! 俺を馬鹿にしてきた奴らを見返してやるんだ……っ」


 ボソボソと呟く小田君。別に彼はいじめられてなどいないのだが、女子生徒に囲まれることの多い彼女持ちイケメングループに対する一方的な偏見と憎しみから、そのような幻想を夢見ているようだった。……うん、まあ気持ちはわかる。イケメンは全員滅んでしまえばいいとは俺も思うからな!


「なあ光清こうせい、『恩寵グレース』っていったいどんなのが来るんだろうな?」

「さあね、駿介。オレにはわからないさ。でもきっと悪いものじゃないよ」

「光清君〜、もし弱い『恩寵』だったらどうしよう〜!」

「あたし不安〜!」

「はは、大丈夫だよ。人の価値は『恩寵』なんかで決まるわけじゃないんだから」

「「光清くぅん!」」


 小田君の憎悪の視線を辿ってやれば、あちらはあちらでなんともはらわたが煮えくりかえるような光景が繰り広げられていた。青春群像劇が如く男女(女子比率高め)が入り混じる集団の中心にいるのは学年一のイケメンこと中原光清と、その友人でイケイケグループ内で確固たる立ち位置を保っている岡崎駿介。

 このシリアスな状況下において尚、数名の女子生徒に囲まれてチヤホヤされてキャッキャウフフとはなんとも図太い奴らだとある意味で尊敬せざるを得ない。まあ図太いという面では俺も変わらないかもしれないが。

 ……ただ、乳繰り合うのはいいんだが、頼むから人の目のないところでやっていてほしいな。イケメンとあらばすぐに胸キュンしちゃう系女子達に今更何かを思うことは別にないが、それでも同じ男として、見ていて楽しい光景では決してない。非モテの妬みだ!


「進次、不機嫌だね?」

「イケメンは滅びればよいのだ」

「男の嫉妬は醜いぞー」

「…………っっ、俺は、悔しい……っ」


 俺だってモテモテの人生を歩みたかったんだい。薔薇色で順風満帆な学生生活を送りたかったんだい!

 ……まあ、その学生生活を送る学校ごと転移してしまっている以上、その夢が叶うことは永遠にないんだが……。


「あはは。進次、滑稽〜」

「辛辣だな」


 こいつも黙ってりゃ相当かわいいのに……。まあ、ほとんど男友達みたいな付き合いなので、今更叶森に俺が青春を求めることはない。それは向こうも一緒だろう。たまたまで中学時代から付き合いがあるってだけで、別に恋愛感情とかそういった男女の機微が今のところあるわけではないのだ。


「勇者の皆さま! それではこれより鑑定の儀に入らせていただきます! 皆さまに神の御加護のあらんことを」


 大勢の神官を引き連れてやってきたフョードル司祭が笑顔でそんなことをのたまう。奴的には俺達がルシオン王国に協力するのは神の意思に基づく当然の行動であって、それが無事に果たされそうだからご満悦なのだろう。なんとも腹立たしい限りだが、今はこうして従うしかない。

 まあ機会があればいずれ欺いてやるつもりではあるが、とりあえずのところは「神の意思」とやらに従順な姿勢を見せておくとするさ。


     ✳︎


「おおおっ! 光清殿が【剣の勇者】とは! これは一〇〇年に一度の英雄職ですぞ!」

「何、【剣の勇者】だとっ⁉︎ これは凄い! これなら我がルシオン王国の未来は明るいぞ!」


 何やら向こう側が騒がしい。なんだと思ったら、例の憎っくきイケメンボーイこと中原光清の奴がレアな『恩寵グレース』を引き当てたっぽいな。


「ご多分に漏れず、イケメンキャラが勇者かぁ。まさしくファンタジーだな」

「校長先生が勇者とかだったらもっと面白かったのにね」

「なんだろうな。【光の勇者】とか?」


 頭部が眩しいからな。


「ぶっふぉ!」

「おい吹き出すなっ。目立つだろ!」

「ひ〜! 面白すぎる、うふ、ふはっ……はぁ。皆イケメン君に夢中だから誰も気づかないよ〜」


 俺の肩をバンバンと叩いて笑い転げる叶森。いい感じに不安と緊張が解けてきたみたいで何よりだ。

 ちなみに件の校長だが、彼の『恩寵グレース』は【不毛の大地】という地形操作系のモノであった。なんでも一定領域の草木類の生命力を奪い取って、土地を砂漠化させる能力だそうだ。一度砂漠にされた土地は、復活するのに数年は要するという。まさにその髪型に相応しい能力である。

 ……ってかこっちのほうが【光の勇者】より面白くない?


「おおお、駿介殿は【盾使い】か! 【剣の勇者】を支える優良職ですな! これは幸先が良い」

「光清、俺はこの力でお前を支えるぜ!」

「ああ、頼むよ!」


 イケイケグループは、どうやらこっちの世界でもイケイケらしかった。なんたる不条理……。


「光清君、あたし【癒しの巫女】だったよ!」

「私は【緑の魔法士】だよ!」

「お二人とも当たりの職業ですな。まさに勇者の仲間に相応しい」


 中原光清の取り巻き女子達もなかなか良さげな『恩寵グレース』を引き当てたようだ。そういえば【癒しの巫女】のほうは学校で保健委員を、【緑の魔法士】のほうは環境委員だったような気がする。校長の【不毛の大地】の例も踏まえると、どうやら『恩寵』は本人の性格や資質に大きく影響されるみたいだ。


「さて、お次はどなたがいかれますかな?」


 まだまだ未鑑定の生徒はたくさんいる。期待値が高まる反面、ある意味で残酷な『恩寵』鑑定の儀は続く。



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