第2話 勇者召喚
「…………おう、これはまたなんとも、テンプレ通りの展開だな」
「夢……じゃなさそうだね」
光が収まってようやく目を開けられるようになった俺達がまず目にしたものは、体育館よりもずっと広く感じられる石造りの巨大な空間だった。
実際に目にしたことはないが、まるで西洋風の城のような雰囲気を感じる。天井なんて柱もないのに随分と高いが、それで崩れたりしないんだろうか。
しばらくして、俺達以外にもこの状況に気づいた連中が出てくる。何しろ七五〇名ほどの人間がこの場にはいるのだ。こういう超自然的な現象に直面しても、ちゃんと冷静さを保つことができる立派な人間は一部存在しているらしかった。
「これは……何が起こっているの?」
我らが担任の岡本紗智子先生もまた、その冷静な人間の一人だったようだ。新卒で我が校に赴任した、まだまだ半人前の新米世界史教師である彼女だが、生徒に対する真摯な姿勢と真面目な人間性が評価されて、生徒および教師からの人気はたいそう高い。
一方の校長に教頭、そして先ほど俺達を注意してきたおっさんの先生なんかは現状をうまく受容できていないらしく、完全にフリーズしてしまっていた。
「おお……召喚は成功か!」
すると、大広間の入り口と思しきあたりに立っていた神官服のようなものを着ていた頭の眩しいおっさんがそんなことを叫んでいるのが聞こえてきた。明らかに日本語ではなさそうなのに何故か言っている内容が理解できるが、これもまた召喚の影響だろうか?
「マジで集団転移系なのかよ……」
「この前読んだ『オレだけ最強転生』、面白かったよね〜」
「あれはウェブ小説時代から高評価だったからな。アニメ制作陣も気合い入ってたと思うぞ。……じゃなくてな? 今はまず現状把握だろ。なに日常会話を続けようとしてるんだお前は」
「焦ったって何も変わらないんだよ」
それはまあそうなんだが。流石に叶森の奴、危機感が無さすぎるのではないだろうか。
「まあいざとなったら周りの人間が肉の盾になってくれるでしょ!」
「貴様なんてことを」
まあ実際、俺達のいる位置は限りなく神官からは遠い。仮に何か攻撃のようなものを受けたとしても、すぐに死ぬなんてことにはならない筈だ。そういう意味では楽観的でいるほうが精神に負担も少ないのかもしれない。知らんけど。
「テンプレだと、この後は異能とかステータスのチェックだよね」
「そうだな。『ステータス オープン』………開かないぞ」
「『メニュー』、『スタート』、『ホーム』……だめじゃん」
ふと周りを見遣ると、俺達が周囲から浮いていることに気づいた。無理もない。こんな意味不明な状況に置かれている中で、二人だけ変にテンションが変わらない奴らがいるんだから。
ちなみにそんな俺達だが、実は緊張していないわけではない。これでもちゃんと俺も叶森も人並みには戸惑いや恐怖を感じている。その証拠に叶森の奴、俺のワイシャツの裾をずっと遠慮気味に摘んでやがる。なんだか可愛いね。
俺? 背中がずっと冷や汗でびっしょりだよ。まあここに来る前から暑さで既にびっしょりではあったけどな。
「えー、勇者の皆さま!」
すると神官のおっさんが大声を張り上げて俺達に話しかけてきた。……勇者?
「今、王国は危機に瀕しております!」
「えー、予想が当たっちゃったよ」
まあ、これで勇者召喚じゃないほうが珍しい展開だとは思うけどな。
それはさておき、案の定神官の話が長かったので総括すると。
どうやら俺達は地球とは別の世界にあるルシオン王国という国に召喚されてしまったらしい。召喚されたのは、体育館にいた私立桜山高校の生徒と教職員を合わせた七五四名。体育館にいなかった用務員さんや欠席していた生徒はどうやらこの強制召喚イベントを免れたらしい。
それでは何故ルシオン王国とやらは俺達を召喚したのかといえば、それは現在この国が他国との戦争の真っ只中にあり、国力差的に敗戦は目前、今まさに国が滅びようとしているから――――とのことであった。
軍人でもなければ、特殊な能力を持っているわけでもない高校生(および教師達)を召喚したところでなんの意味があるのだろうかと思っていたら、
曰く、俺達は世界を越える際に「世界の意思」的な超自然的概念的不思議存在から一人につき一つ、何かしらの特殊能力が付与されているらしいのだ。その特殊能力を『
ルシオン王国の奴らは強大な力を秘めている俺達を国を守るための戦力にするために、こうして大規模な召喚の儀式を
「……これ、俺達が従う義務ないよな?」
「ないよ」
そう呟く俺と叶森。まあ真っ当な現代的価値観を持った人間なら、おそらく全員がそう答えるに違いない。
見た感じ、地球のそれと大幅にズレた価値観をお待ちのルシオン王国の面々だが……はてさて俺達はいったいどうなってしまうんだろうな。校長をはじめ、監督者にして保護者たる教師達の活躍に是非とも期待したいね。
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