SFオタク建国記
常石 及
召喚・追放編
第1話 イマドキ学校単位での集団転移モノなんて流行らんぞ
「――――というわけですから、生徒の皆さんには自主自立の精神を持っていただき、本校の生徒として恥ずかしくない行いを心がけ――――」
七月下旬。生徒達を一喜一憂させる一大イベントたる期末試験も終わり、ようやく明日から夏休みという終業式の日。
今日も今日とて朝っぱらから無駄にクソ元気な太陽が、関東に位置する某快晴率日本一の県に所在を置く我らが母校、
当然ながらそのような状況で、例によって長ったらしい校長の話なんぞをまともに聞いている人間がいるわけもなく、かくいう俺、
光り輝く校長の頭頂部を視界の端に捉えつつ、半ば上の空で体育館の天井の鉄骨に挟まっているバレーボールを眺めていると、ふとクイクイッとワイシャツの裾が引かれる感触を覚える。振り返ると、名前の順の関係でちょうど真後ろに立っていた女子生徒、
「(校長の話、長いね!)」
「(長いなぁ)」
この叶森という女……俺とは中学時代からの知り合いなのだが、実は中学一年生の頃から高校二年生まで同じクラスという、なんだか作為的なものを感じざるを得ないくらいには腐れ縁な相手だったりする。一応、うちの高校は県内でも進学校扱いされているので、同じ中学出身の人間はそれほど多くはなく、こいつも含めて三人くらいしかいないんだが……なんというか偶然って面白いな、と思わなくもない。
「おいそこ、私語は慎みなさい」
そんなことをしていたら、すぐ近くに立っていた教師が俺達を注意してきた。彼自身もまた顔中から噴き出す汗を拭いながら校長の長話にひたすら耐えているというのに、よくもまあ他人に注意できる余裕があるもんだな。感心すらしてしまうね。
「だってよ、叶森」
「静かにするのだよ、沖田君」
「こら、静かに!」
「「すいません」」
こうも暑いと静かに聞いている集中力もなくなってくるんだから、仕方がないじゃないか。
「――――それでは長い夏休みですが、夏期講習もあることですし、皆さん羽目を外し過ぎないよう気をつけて過ごすようにしましょう」
その言葉が聞こえた瞬間、周りの生徒達がげんなりした……ような気がした。
進学校あるあるの一つ。夏休みのうち、約半分は夏期講習とかいう名の事実上の必修授業で消えるアレ。仮にも夏休みを標榜するなら、たかだか一ヶ月くらい休ませろ! ただでさえ少ない休みに羽目を外さないで、いったいいつ外せば良いというのか⁉︎
そんな俺達生徒の総意ともいうべき意思が神に届いたのか、はたまた届いた相手は悪魔だったのか。
校長が長い長ーい話を終えて壇上から降りようとした次の瞬間、巨大な魔法陣のような形をした光り輝く幾何学模様が体育館いっぱいに描かれる。
「⁉︎」
「な、なんだこれは!」
「ちょっ、どうなって……」
「皆さん落ち着いて! 静かに!」
明日から夏休みを迎える生徒達への、教師からのサプライズ――――ではなさそうだ。校長、教頭をはじめ、教師達は皆一様に困惑し、あるいは慌てふためいている。責任のない生徒とは違って大人というものはなかなか大変そうだ。
「誰かのいたずらなのか? にしてはやたらと手が混んでるが」
「生徒会はこんなことしそうにないもんね」
どこかのんびりとした、他人事っぽい様子でコメントを述べる俺と叶森。周りが慌てていると、逆に自分は落ち着くというのを今まさに体感している俺達である。
「あっ、光った」
「元から光ってるよ、進次」
最初は「なんだこれ」で済まされた巨大な魔法陣は、気づけば段々とその光量を増してきていた。
「ちょ、これってあれか? よく漫画とか小説に出てくる、集団転移的な……」
「それにしては流石に規模がデカすぎない⁉︎」
「デカイとは思うけど、でもこんなん普通ありえないだろ。……というかイマドキ学校単位での集団転移モノなんて流行らんぞ。時代はラブコメだ!」
「それはそうかもしれないけど、現に私達それっぽい現象に直面してるんだよ!」
これが暑さで朦朧としている俺達が見た集団幻覚だったらどれほど良かったことか。
やがて魔法陣は、直視していられないくらいに眩しい光を放ち。体育館に集まっていた我らが桜山高校の全生徒ならびに教職員、総勢七五四名は、文字通り一瞬でこの世界から姿を消したのだった。
後に桜山高校集団失踪事件として世間を騒がすこの事件だが、当事者たる俺達はそんなことを知る由もないのだった。
――――――――――――――――――――――――――
[あとがき]
『努力は俺を裏切れない』でお世話になっております、常石です。この度、新作の投稿を開始いたしました。こちらでもどうぞよろしくお願いします!
※能力(『
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