244 『スパイラルステアーズ』
本来、スサノオの実力と勘の良さならば電光石火でこの日のすべてを解決させられただろう。
けれどもそうならなかったのは、一つには『大陰陽師』リョウメイが式神を使い裏で手を回してスサノオが全部を一瞬で片づけるのを防いだことによるものであり、もう一つにはオウシが邪魔立てしたからである。
オウシとしてはこの邪魔立てが大事になる。
これをオウシからそれとなくサツキに話せば、優れた政略眼を持つサツキはその意味を勝手に解してゆく。
すなわち。
この日の事件を士衛組の手で解決すれば、士衛組は名声を博し、そのあとの裁判がやりやすくなる。外野の鷹不二氏や碓氷氏が肝心なところで解決してしまっては、せっかくのチャンスを潰すことにもなるのだ。
きっとサツキは、話を聞けば、深い部分までぐるぐると思考を巡らせ、オウシのしてくれたことのありがたさを理解するところまで辿り着き、鷹不二氏への感謝を大きくする。
サツキをそれだけの頭脳を持つ人物と評価しての行動であり、サツキにはその才覚があるから、オウシの論理には一分の隙もなかった。
当然ながら。
そんなオウシの読みの元にオウシ対スサノオの戦いが繰り広げられていることなど、今のサツキには知る由もなかった。
ヴィアケルサス大聖堂内部。
二階エリアを突破したサツキとミナト。
クコとヒナ、そしてヒヨクとツキヒに任せて先へと進むことに成功した二人だが、ここからは螺旋階段が待っている。
道幅も充分に広い。
しかし戦闘をするには向かない。
そのためか敵もいなかった。
ひたすら敵も気にせずのぼればいい。
厳密には、いつ伏兵が現れて攻撃してくるかわからないので、サツキは《透過フィルター》で敵がいないかをサーチし、常に警戒を怠ることなどできないのだが。
こうして二人が螺旋階段を駆け上がると。
廊下が伸びていた。
二十メートルも進めば、そこから先は広くなっているのがわかる。
ようやく辿り着いたサツキとミナト。
ここで。
最後の敵を発見する。
――いた。おそらくこの人が……サヴェッリ・ファミリーのボス、『
スーツ姿にオールバックの髪、額の左側に十字架のタトゥーが入り、厳かで渋い顔がサツキとミナトをにらんでいた。
背は一八〇センチほどと高い。
年は五十歳くらい。
そこまでは、マフィアらしい佇まいとも言えるが。
特徴的なのが、その手にあるものだった。
――髑髏。それもただの骸骨じゃない。なにか、禍々しい魔力を放っている。それに、宙に浮いているのか……。
魔法によって浮いているらしい。
その上、骸骨はただならぬパワーを秘めていると思われる。
この骸骨も大いに気になるところだが。
しかし、それより。
――気になるのは、その隣……。
当然そこにいるはずのマルチャーノのことはいいとして、その隣には何者かが立っていた。
これがだれなのか、知らないはずだった。
単なるサヴェッリ・ファミリーの味方など知らないはずなのだ。
なのに、知っている。
記憶にはある。
記憶だけしている。
それも今日、記憶したところだ。
――なぜだ? なぜこの人がここにいる? いや、そんな優しい言い方はそぐわない。なぜ、この人が存在しているんだ?
存在すること。
それ自体がおかしなことで。
サツキの記憶したところでは、この場所どころかこの世のどこにも存在してはいけない人物だった。
そう、この世のどこにも。
あくまで、この世のどこにも。
逆に言えば、この世でなければいい。
なぜなら、サツキの記憶にあるその人は……。
――死んだはずの天才芸術家、カルミネッロ。どうして、この人が存在しているんだ。
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