238 『アウクシリア』
クコ対レイピア使い。
その間にも――
上空から、ヒナは剣を振り落とした。
「くらいなさい!」
ヒナの剣を見て。
ヒナの動きを見て。
槍使いはほくそ笑む。
「知らねえのか? 空中じゃ、身動き取れねえってよォ!?」
「知ってるっての! ミナト」
瞬間、槍使いの槍がぎゅんと伸びた。
――サツキの言った通り!
サツキの指示はどれほどちゃんとこの槍使いにも聞こえていたか。
ミナトがこれに対応してくることは考えていなかったらしい。
「とあああ! あ?」
槍が三メートル以上になった。
が。
貫くべきターゲットのヒナはいない。
キョロキョロするまでもなく、その前に、槍使いの背後からヒナの声がする。
「《まどろみ》」
ガッと剣で叩かれて、槍使いは眠ってしまった。
「眠りなさい。そして……サンキュー、ミナト」
「困るなァ、便利に使われちゃァ」
そう言ったミナトは、もう隊列があった反対側、右側にいた右手に魔力を集めていたらしきマフィアの右腕を切り落としていた。
「いいじゃない、そっちの処理までできてるんだし」
「でなけりゃァ、サツキの助太刀もできたってもんだったのに」
ミナトは肩をすくめ。
一秒と待たず。
サツキが背後から敵と戦っている場面に割り込み、サッと剣を振った。
「ありがとう」
「いやいや」
隊列は。
後ろまで視認可能な《
先頭のミナトは自在に動く。
クコとヒナを真ん中に置き、二人は柔軟に対応するというものだった。
だが、実際に柔軟に味方のサポートをしているのはミナトだと言ってよい。
こうしてサツキの指示が導くままに進み、その都度足を止めて、また進むことを繰り返す。
今度は、少し面倒そうな敵が現れた。
「しゃがんでいる相手、その周囲に注意。地面に干渉するタイプだ」
片手を地面につけ、しゃがんでいる。
その相手の近くに行けば、地面に干渉されてなにかが起こる。そのなにかがわからないので、クコは聞いた。
「地面ですか?」
「足場が悪くなるってことでしょ」
ヒナには一応意図は伝わったが、肝心のなにが起こるのかはサツキにもわからない。
その上、サツキはほかの敵の洞察もしなければならなかった。
「ミナト。左奥の相手、銃を構えているが、弾に魔力も込められている。クコとヒナを守る必要がなければ回避を」
「了解。僕の腕かサツキの目がないと、銃弾は斬れないみたいだしねえ」
「銃弾を斬るなんて芸当、普通は無理なのよ!」
と、ヒナがつっこむ。
普通はいくら修業をしていても、魔法世界だろうと簡単に銃弾を斬ることなどできない。
サツキには動体視力が著しく上がる《緋色ノ魔眼》があるし、ミナトには常識が通用しない。
「正面、全身の肉体を覆う魔力としなやかで強靱な筋肉はただの使い手じゃない。腕力と身のこなしは一級とみた」
「次から次へと厄介なのが控えてるわね、まったく」
嘆くヒナに呼応するように、サツキの後方から声が飛んでくる。
「それなら、ボクたちが引き受けよう」
「《シグナルチャック》。ヤツはもう動けない」
ツキヒの指先が正面の敵へ向き、ヒヨクが後方の敵を背負い投げして爽やかな笑顔を見せた。
「まさか! ヒヨクさんにツキヒさん! いらしてたんですね!」
「あたしはこの耳で聞こえてたわよ」
満面の笑みでクコが素直に喜び、ヒナは斜に構えた態度を取る。
ミナトはゆるく笑った。
「嬉しいなァ、来てくださって」
そしてサツキはというと。
表情を変えずに振り返る。
――俺も《
敵の数とその対応で下の階まで気にかけるにはちょっと頭の処理が追いつかなくなり、参番隊の様子も見られていなかったが、二人がこれほどすぐに来てくれたのは予想外だった。
サツキはヒヨクとツキヒに問うた。
「引き受けてくれるかね?」
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