237 『コマンダーアイ』
サツキとミナトは三階を目指していた。
――ボス・マルチャーノは三階にいる。そこに辿り着くためには、二階をパスしなければならない。
マルチャーノと決着をつけなければ、戦いは終わらない。
だが。
そこに辿り着くまでに、全員を倒す必要もない。
――突破さえできればいい。
それでも敵の数が多くこちらの人数も少ないとなれば、苦戦を強いられるのも当然だった。
――この階にいる敵の数はざっと七十人くらい。一階よりは少ないが、ミナトばかりに斬らせるには敵もちょっとは骨がある。あちこちで小さな竜巻が起こっていたり、足場が崩れやすくなっている箇所もあるようだ。
魔力反応を見透す《緋色ノ魔眼》によると。
この階の敵はそれぞれが厄介な魔法を使うらしいとわかる。
それゆえ、ミナトを動かすにはリスクがあるのだ。
――変な魔法につかまったら三階に行くのに余計時間がかかるな。加えて、ミナトの躍動ですべてを斬り伏せるには体力を取られすぎる。
その結果が足踏み状態であり、縦横無尽に動き回れる機動力を持つミナトと違って他三人は攻撃範囲も狭く奇策を使うタイプでもないため、敵の一掃も叶わず、正面突破も厳しい。
――どうする……?
判断は局長のサツキが下すべきであり、しかしどう決断しようにも時間を取られずに突破する方法がないように思える。
「どうしますか? サツキ様」
「あたしたち四人じゃキツいわよ」
クコとヒナもそれはわかっている。
だが、サツキに聞くしかなく、サツキなら妙案を口にするのではないかと期待しているのである。
それほどにサツキを信頼しているのはミナトもそうで、事実、司令官として彼らの信頼に足る優れた目と頭脳をサツキは持っている。
「仕方ない。このまま、四人で突き進む。その都度、敵の特徴を洞察、みんなに伝える」
「いやあ、ムズムズするなァ」
ミナトが軽い調子で笑った。
いつもの透明感のあるミナトの笑顔だが、内心ではもっと自由に戦いたくてもどかしいのだろう。
「我慢だ」
「だね」
サツキは最後尾から指示を出す。
「右前方四十五度、右手にのみ魔力を集中させている。なにをするか不明。注意」
続けて。
「正面、気流を創っている。左に流れるような風がある。が、背後に風はなし。ミナト」
「ああ」
すると。
先頭を走っていたミナトは姿を消した。
隊列から消えると同時に、正面にいた敵の背後に《瞬間移動》を完了させている。
そして、斬った。
「風は消えた。左六十度、レイピアが熱を持っている。発火はないと思われるが警戒」
「他には?」
ヒナが聞く。
「そのすぐ後ろに、槍を構えた者がいる。こちらは柄の部分のみに魔力反応あり。おそらく伸縮性を持つ」
「了解、行くわよクコ」
「はい!」
びょーんと、ヒナが地面を蹴って飛びかかる。
手には剣を持ち、手前にいるレイピア使いに振りかぶる。
このとき、ヒナは跳躍して敵の上を跳び越す軌道を描いており、レイピア使いには上から剣を振り落とす形になる。
そこに、クコも地上から同時に剣で斬りかかった。
刹那。
クコの剣はヒナ以上の速度でレイピア使いに迫った。
ここで、相手にすべきはクコになる。ならざるを得ない。それほど、クコの剣は魔力をまとって強烈な威力を持つとわかる。
「《ロイヤルスマッシュ》!」
「どらあああ!」
しかもこのとき、ヒナの軌道はレイピア使い上空を跳び越すもので、ヒナの剣が空中からでは届かないことも読める。
つまり、ヒナの狙いはその後ろ、槍使いだとわかるからだ。
「やあああああ!」
一対一となったクコとレイピア使い。
この勝負、クコの剣は凄まじい威力でレイピアを弾き飛ばしてレイピア使いも吹き飛ばした。
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