239 『バックボーン』
ヒヨクは余裕の笑顔で答える。
「もちろんだよ。そのつもりで、わざわざ敵の情報を教えてくれたんだろう?」
「いや、クコたちに言っただけだ」
あてにして言ったと思われるのも心外だ。
ツキヒはつまらなそうに、
「どっちでもいいよ。それより、いつまでここにいるつもり?」
「ありがとう。ヒヨクくんとツキヒくん。それじゃあサツキ、僕たちは上に行こう」
「うむ。だが、二人だけに任せてしまうのも……」
完全にヒヨクとツキヒに任せきるつもりだったミナトに対して、サツキはやはり気が引けた。
――二人の強さはよく知ってる。それに、あの汎用性とコンビネーション。二人だけで大丈夫だろう。急ぐこともなく、ただ敵を引きつけつつ、順序立てて倒していくだけなのだから。
それほどにサツキは二人の強さを信頼している。
しかし。
――それでも、ここでの借りは大きなものになる。しかも……その借りを返す相手は、ヒヨクくんとツキヒくんだけじゃない。
なぜか。
それは、彼らのバックボーンに理由がある。
――二人はリョウメイさんが管理する歌劇団の次期メンバー。つまり、ここでの彼らへの借りは
即座に、サツキはそのことにまで思考を巡らせた。
その点から見ても、サツキという局長は骨の髄まで政治眼が行き届いた一種の超人と言える。
だが、問題はそこに気づいたとて、この状況で丸投げ以外の選択を取れるかどうかである。
――やっぱり、そこを思えば少なくともクコかヒナは置いていくべきだな。
わずかな時間の計算の間に。
クコは名乗り出た。
「わたしはここに残ります! この人数を任せきるわけには参りません!」
「そうね、あたしも完全に助けられたってのは気に入らない。広場のほうはマノーラ騎士団も同じく敵対しているからいいとして、この二人は部外者じゃない」
苦笑を浮かべて、ヒヨクは頬をかく。
「ひどいなあ。ただ、リョウメイさんには
「うん」
とツキヒがうなずく。
「ボクには詳しいことはわからないけど、双方にとってメリットになるんだから部外者とか気にしなくていいと思うよ」
「違うのよ。あたしたちにとって、貸し借りをつくりたくない相手ってのもいるの。まあ、
ヒナの見立てでは、
――あの『茶聖』よりも『大陰陽師』のほうがいくらか信用できそうなのよね。鷹不二氏のほかの面々のことはわからないけど。
だから、完全にここでの貸し借りをNGとは思っていない。しかし望むところではなかった。
――でも。直感で、一線だけは引いておきたいのよね。
ツキヒはあっさりと了承する。
「ま、オレは好きにすればいいと思うよ。オレたちの邪魔したり足引っ張ったりしなければね」
「なんですって!? ムキー! だれが足なんか引っ張るもんかってのよ! やるわよ、クコ!」
「は、はいっ!」
感情的になっているヒナに、クコは勢いでうなずいた。
だが、実際はヒナも見た目ほど頭に血が上ってはいない。
――いいわ、ここはあたしらが残るのがちょうどいいってことよね。あたしにはまだ政略的な分析は浅くしかできないけど、サツキが出した答えならやってやるわよ。
サツキを一瞥すると、目が合った。サツキのうなずきを見て、ヒナもうなずき返す。
「ここは任せて先に行きなさい! サツキ、それにミナト」
「頑張ってくださいね! サツキ様! ミナトさん!」
ヒナとクコに送り出されて、ヒヨクとツキヒもエールをくれた。
「吉報を待ってるよ」
「いってらっしゃい」
サツキとミナトは顔を見合わせ、それから四人に言った。
「ああ。任せろ」
「きっと勝つよ」
二人は先へと進んでゆく。
その道はヒヨクとツキヒ、そしてクコとヒナによって開かれるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます