229 『バトルクライ』

 参番隊に任せてもらって大丈夫と、リラはそう言い切った。

 サツキはこれを見て、


「頼もしいな」


 と思った。

 参番隊が戦力的に頼りになるという意味ではない。

 それだけではなく、リラたちの顔が頼もしくなったと思ったのだ。

 ナズナとチナミには四月に出会い、もう半年近く共に旅をしてきた。だからその分だけ成長も見てきたし、出会った頃より頼もしさを感じられるのも当然かもしれない。

 だが、リラと出会ったのはたったの一ヶ月前。実際には一ヶ月も経っていない。

 それなのにリラの成長をこれほど感じられるのは、クコの記憶の映像を見せてもらって昔のリラを少しは知っているからか。あるいはこの一ヶ月での成長が著しいからか。

 きっとその両方だろう。

 イストリア王国に来るまでも、マノーラに到着してからも、ずっと参番隊は特訓をしてきた。

 その頑張りと成長が顔に表れているのだと思える。


「参番隊の仕事は足止めだ。無理はするな」

「わかっています。サツキ様こそ、あんまり無茶のしすぎはしないでくださいね」

「ああ」


 平然とうなずくが、サツキは平気で無茶をするとリラはわかっている。だが、言わずにはいられない。ほんの少しでも無茶が過ぎなければそれでいいと願って言っただけなのだ。

 大階段が迫ると。

 リラは確信した。


 ――これならいける。


 サツキを一瞥して。


「大丈夫です、サツキ様。この幅なら、要塞を築けます」

「なるほど。名案だ」


 要塞。

 そのひと言で、サツキにはリラのプランが読めた。

 大階段を前にして、これから要塞を築いて敵の足止めをする。リラだからこそできる技だ。


「それまでの時間稼ぎは必要か?」

「いいえ。チナミちゃんとナズナちゃんの援護さえあれば、いけると思います」


 おそらくリラが要塞を築くまでが十秒以内。

 手際さえよければ六、七秒で完成させられる。

 それに、フウサイもいる。

 なにかあれば守ってくれる。


「わかった。俺たちはそのまま突き進む」

「はい。そうしてください」


 徐々に大階段まで近づいていく。

 ここを通すまいと待ち構えている手下たちも、ミナトの早業で片づけられる。十人もいないのであれば、しかもそこを守るのが一級の戦士でもなければ、ミナトには数秒の遅れさえなく通り抜けられる。

 本当はサヴェッリ・ファミリーの中でもそこそこの実力者たちを配置していたのだが、ここでのそこそこはミナトの腕の前では実力など皆無に等しい。

 ミナトが階段にいた敵を一掃すると。

 リラとナズナとチナミが止まった。

 クコがリラたち参番隊を振り返って、


「頑張るんですよ、リラ! ナズナさん、チナミさん、よろしくお願いします」

「すぐに倒してくるからね!」


 と、ヒナも参番隊を鼓舞する。


「はい、参番隊がここを守ってみせます」

「い、いって、らっしゃい」

「むしろ私たちが追いつきます」


 リラ、ナズナ、チナミの声を聞き、クコとヒナも前を向いて走っていく。

 依然先頭のミナトはもう先にいて、サツキは参番隊に最後のアドバイスをしておく。


「三人の連携を試すにはいい演習になる。フウサイもいるし、思い切りやってみろ」


 参番隊が「はい」と声をそろえて返事をして、サツキも先を急ぎ階段をのぼっていった。

 残った参番隊。

 隊長のリラが、


「参番隊っ」


 と言うと。


「えい! えい! おー!」


 三人で鬨の声を上げるのだった。

 参番隊は、これから頑張ろうというときに鬨の声を使うようにしていた。

 心を一つに、戦陣での士気の鼓舞と戦闘開始の合図としている。

 勝てば勝ち鬨、また鬨の声で勝利を喜び合い戦いを締めるのだ。

 鬨の声を合図に、三人はさっそく行動を開始する。

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