222 『インファイティング』
最後尾。
ここを守るのはカーメロである。
「人数は多いがたいした者はいないらしい。この隊列もパーフェクトだ。我々だけで全員を相手取るくらい余裕過ぎるぜ」
カーメロは鋭い目を光らせて後方の敵全体を観察しすべてをいなしてみせる。
サツキはカーメロの前を走りながら、《
――やっぱりうまい。戦い方がとんでもなくうまい人だ。
《
人間は目の配置の関係から、前方しか視認できない。なんとなく横も見える、くらいのものだ。
草食動物と違って、後方は見えない。
しかし、サツキの《透過フィルター》は物体を透かして視野を確保できる。これを応用し、自分の頭を透かすことで360度の視野を得たのが《
ただし、はっきりと視野として把握できるのは注意を向けた120度くらいの範囲であり、残りは視界の端で見るようなものだがそれで充分だった。都度都度意識を各方向へ転じてゆけばいい。
――難しいポジションを担当するカーメロさんの補助をするために、背後まで視認できる俺が隊列の後ろにいることにした。
カーメロの一つ前、ほかのみんなの後ろに位置している。
――隊の前のほうにいても《
こうした芸当のできるサツキだからこそ、この隊列がもっとも有効だと考えた。
改めて、先頭から役割を記すと。
大剣による突破力と仲間を先導する確かな実力を持つオリンピオ騎士団長が先頭に。
続いて、オリンピオ騎士団長のすぐ後ろにはクコが来る。オリンピオ騎士団長では対応しきれない部分をクコが剣術で処理するのだ。
次の安全な場所をリラとエルメーテにいてもらって。
ナズナはその少し上を飛行する。ナズナは弓での攻撃も可能だから機を見て援護射撃も担う。
その上で、優れた反応速度と機動力を持つミナトとチナミを中央。あえて正確な位置を決めずに、左右どこにでも自由に対応できるようにした。
そして、最後にサツキとカーメロ。
カーメロに最後尾を任せながらも、サツキが補助をする構えだった。
――だが、カーメロさんには援護など必要ないようだな。圧倒的な戦闘センスは知っていたが、それはこの複雑な状況にも対応可能だった。さすがにパーフェクトだ。
彼の口癖の「パーフェクトだ」をサツキも心の中で口にした。
今も敵はカーメロに翻弄されている。
敵の二人が位置を入れ替え、彼らは別の仲間をそれぞれ攻撃しては潰し合い、相討ちになったところで異変に気づく。
「ぎゃっ!」
「だあああ! ……あ? な、なんだこりゃあ!?」
《スタンド・バイ・ミー》。
手に触れた物の場所を入れ替える魔法である。
対象は人に限らず、物質でもいい。
カーメロはこの魔法を最大限に生かすため、無数の武器を隠し持っている。
一度目に触れた物と、次に触れた物とを入れ替えるのだが、右手に触れた場合は次に右手で触れた物と入れ替え、左手に触れた物は次に左手で触れた物と入れ替えるのが条件となる。
たとえば。
ナイフを対象物に設定して右手で投擲。
その後、ナイフが敵に迫ると。
ナイフを弾き飛ばそうと剣が振られて。
剣がナイフを捉える直前――
カーメロが別の敵に右手で触れて、次の《スタンド・バイ・ミー》の対象物に設定する。
そうすれば。
敵に触れた瞬間、《スタンド・バイ・ミー》が発動。
剣がナイフを叩く寸前に、ナイフが彼の味方の姿になって現れる。
こうして同士討ちが完成してしまう。
しかも。
ナイフは元通りカーメロの側に舞い戻る。
そんな小技を使えば数本のナイフを流れるように投げてゆくだけで、立て続けに数人に同士討ちをさせられる。少ない労力でそれが可能となってしまう。
むろん、そこには極めて難しい計算と技術が必要になるが。
さらに、槍と斧が合わさった形状の万能武器、ハルバードでほかの敵もいなして。
またマフィアたちとの距離さえできれば、二本のナイフを投げてこれらを巧みに利用する。
右手で投げたナイフ。
これを、味方がやられたのを見て学習したマフィアたちに対して、今度は左手に持ったナイフでカーメロは自身の右手を突き刺す。もちろんこの際、刺す方向は計算しなければならない。
すると、ナイフが右手に接触するのと同時にそれは消えて、先に投げたナイフと入れ替わり、第二のナイフは計算された方向へと慣性の法則で進み続ける。
結果。
二本目のナイフは予期せぬ軌道を描き、マフィアを急襲する。
容赦はない。
ナイフは脳天に刺さって命を奪う。
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