223 『クレバーショット』
いくらサヴェッリ・ファミリーのマフィアたちがサツキたちの命を狙って襲ってきても、サツキとしては敵の命を奪うつもりまではなかった。
しかしそう甘いことを言っていられる戦場でもない。
カーメロはクールだった。
そして、カーメロのそれは狙うべき相手をしかと見定めており、ただの雇われただけの、しかしちゃんと悪党である者と、立場が少しばかり上である者とをそれぞれ仕留めている。
これを見れば、ここに集うあらゆる者共が思う。
「ひ、ひいぃ! あれがカーメロ……強ぇ。手も足も出ねえよ。お、おれは雇われただけなんだ、こんなのと戦いたくはねえ」
「オレだってご免だ! カーメロはあのロメオと互角にやり合う『戦闘の天才』だぞ!」
「ジュゼッペさん!」
「くそ、ジュゼッペさんが近づくことすらできないまま殺されるなんてアリかよ!?」
「アリなんだよ、『
ひるむ者が増えて。
近づく者が減って。
それでも、狂気に駆られた者も出てくる。
だが、カーメロの暗器はナイフばかりじゃない。
鋭い針のような小さなものもあり、これが狂乱した敵の目だけを完璧に刺して視力を奪った。
これによって、その狂乱者は斧を狂気のまま無闇に振り回し、彼の味方を傷つけてゆく。
――あえて、あの狂乱した人の命のほうは奪わないのか。同士討ちをさせ、場をかき回すために。どこまでもクレバーだ、カーメロさん。
サツキは少し、ゾッとした。
素直に向かってくる敵だけを破壊して命を奪うようなことはしないスコットに対して、カーメロはより少ない労力でここまでやってしまう。
しかも、ただ物の位置を入れ替える《スタンド・バイ・ミー》という魔法だけでここまでやれてしまう。
それは圧倒的なセンスと緻密な計算によるものであり、そしてそれ以上に感情を切り離したクレバーさによるものであった。
この冷たさもあってこその『戦闘の天才』なのだ。
――今更だが、よくこの人に勝てたものだ。やっぱり、ミナトがそれを上回る剣の天才だからだろうか。
そんなことを思っていると。
カーメロがサツキに言った。
「そろそろオベリスクだ、
「そうですね」
「なにか余計なことを考えていないか?」
「い、いいえ」
「オベリスク辺りから戦況は変わるぞ。司令塔はぼんやりするな」
「はい」
サツキは素早く視野を広げて全体の把握をする。
どのポジションもうまく機能している。
中央のオベリスクまであと少し。
オベリスクに辿り着けばなにかあるというわけではないが、進行すべき場所の半分を越えることにはなる。
ただ、あえて言えばここまで来たら後ろに置き去りにされた敵も出てきて、カーメロを狙う敵が自然増えてくる。
これがカーメロの言う「戦況が変わる」の意味である。
そのオベリスクを越えて。
カーメロが言った。
「やや敵が増えたな、城那皐」
「ええ。ここから増えますね」
「もう少ししたら、ボクとキミだけペースを落とそう」
「……」
「大丈夫、
「それはそうかもしれませんが……」
ミナトさえいれば、この部隊は安全に切り抜けられるはず。最後尾もきっちり守ってくれることだろう。しかし、それではサツキは置き去りだ。ここに残るわけにはいかない。大聖堂の中まで行き、敵のボス・マルチャーノの元まで辿り着かねばならない。
「安心しろ。最後、キミのことは一気にみなの元まで飛ばしてやる」
「飛ばす……なるほど。わかりました」
カーメロの表現から、彼がなにをしようとしているのか、サツキはそのすべてを読み取った。
「ミナト」
「なんだい?」
「聞こえたな」
「うん。任せてよ。先に行って待ってるさ」
サツキは「うむ」とうなずく。
「でも、カーメロさんは大丈夫なんですか?」
それほど心配しているわけじゃない。一応サツキがそれだけ聞いてみると、カーメロは自信満々に答えた。
「このボクの思慮に不足はない。パーフェクトだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます