221 『サイドガード』

 サツキたちの隊列の横を守るのは。

 右側がブリュノとシンジ。

 左側がスコット。

 先頭のオリンピオ騎士団長が敵を薙ぎ払い掻き分けながら進む中、横からの攻撃もあったが、それらから隊を守るのはスコットたちにとっては造作もないことだった。


「雑魚が何人束になってもオレには傷ひとつつけられんぞ! 《ダイ・ハード》」


 スコットの《ダイ・ハード》が発動する。

 これは人や物を硬くすることができるもので、武器を硬化し性能を高めたり、鎧や肉体を硬化して無敵の防御を手に入れるのに使う。

 さらに相手に硬化を付与すれば、靭性を奪うまで硬くできる。そして破壊をしやすくするといった用法もある。

 相手の手足を岩のように硬くして、固まるほどに硬さを極めて、そのあとで粉砕する容赦のなさもスコットの戦法の一つだった。

 それはどこまでも理知的に計算された戦術に則っており、コロッセオでは『ゴールデンバディーズ杯』での優勝を手にしたほどである。


「うわああ! 足が固まった! 動けねえ!」

「腕があァァ!」

「身体中が石になったみてえだ!」

「砕け散るがいい!」


 バトルアックスが硬化した肉体を襲う。

 三人のマフィアは足や腕をバラバラに、それこそ岩が砕け散ったようにバラバラに、破壊されてしまった。

 この光景を目にして、


「ひ、ひええ! こ、これが『破壊神』スコット……!」

「粉々じゃねえか!」


 スコットに近づくのを怖がるマフィアも出てくる。

 しかし、この場にいるマフィアたちの中でも地位のあるらしい者が、「ひるむな! いけ!」と命じると、後から後から「うおお!」と下っ端たちが立ち向かって来る。

 当然、それでもスコットの武器には歯が立たず、バトルアックスに破壊されてるばかりとなった。


 ――味方になるとここまで頼りになるのか。


 サツキがそう思うほどに安心して進むことができる。

 また、反対側では。

 シンジが敵を相手に、武闘家らしく軽やかな身のこなしで応じてゆく。

 しなやかな技もまた相手を翻弄した。

 そのしなやかさは《餅肌》という魔法によるもので、身体を餅状にすることができ、打撃がほとんど効かない。

 逆に、相手に対しては鞭のように叩きつけたり、餅の粘着力で武器を取り上げるなど、硬さだけではできない技を繰り出せる。


「その武器、いただき!」

「おわっ! おれの剣が!」


 手に入れた武器は別の敵に投げつけ、その隙をついて、隣の敵には鞭のように腕をしならせて叩きつける。


「くらえ!」

「うおおッ!」


 今度はブリュノがレイピアで敵を突く。

 コンビネーションも悪くない。


「ボクたちがいれば、士衛組に指一本触れることはできないさ」

「はい、そうですね!」


 しかし直後、シンジに敵の銃弾が飛ぶ。

 これをミナトが斬った。


「あ、ミナトくん。ありがとう」

「いえいえ。シンジさんの《餅肌》なら銃弾も効かないでしょうが」

「まあね」

「チナミくんも見事だよ」

「お節介をしました」


 ブリュノが複数人を相手にレイピアを振るとき、チナミはその戦いが少しでも楽になるようクナイを投擲したのである。おかげでブリュノは余裕を持って処理できた。

 中央のオベリスクまでもう少し。

 そこまでの間も、最後尾では完璧な守りをカーメロがしてくれていた。

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