220 『スクルトゥーラ』

 サツキたちは『聖域』ヴィアケルサス大聖堂へと突入した。

 標的は、サヴェッリ・ファミリーのボス・マルチャーノ。

 彼がいるのがヴィアケルサス大聖堂の最奥だと思われる。

 最奥に居座るマルチャーノを倒さなければ、このマノーラでの戦いを終わらせることはできない。

 ゆえの突入だ。

 しかし、ヴィアケルサス大聖堂には目の前に広場がある。

 ヴィアケルサス広場である。

 円形の広場で、その中央にはオベリスクが立っている。正確には楕円形になるのだが、幅が三百メートルに近いほどあるため高い場所からでないと形状も把握しきれない。

 それもそのはず、この楕円形を囲うのが背の高い円柱で、古代ギリシア建築のような様式で組まれており、コロッセオやパルテノン神殿にも似ている。これらの柱が百五十本あり、その一本一本の上に聖人たちの彫刻があった。

 聖人たちに見守られるヴィアケルサス広場は息を呑む神聖さと広さを持ち、救いを求めて世界中から訪れる信者たちを迎え入れるのだ。

 だが。

 今はここをサヴェッリ・ファミリーの手の者たちが守っていた。『聖域』に足を踏み入れることは許さぬように、彼らがヴィアケルサス大聖堂への道を阻む。

 人数はざっと百五十人。

 聖人たちの彫刻と同数くらいか。

 正式なファミリーの人間だけじゃない。

 この場限りの雇われ者もいることだろう。

 だが、それらの者たちもすべてが敵なのである。


 ――広さ、神聖さ、重々しさ、待ち構える敵の数。『聖域』に突入するにはあまりに大きな障害だ。


 それでもサツキは突き進む。


 ――でも、オリンピオ騎士団長たちがいる。


 オリンピオ騎士団長、エルメーテ、スコット、カーメロ、シンジ、ブリュノがこの場を抑え、サツキたちを先へと通してくれるから不安はない。

 サヴェッリ・ファミリーの手下たちがこちらに気づき、声を掛け合う。


「来たぞ!」

「マノーラ騎士団と士衛組だ!」

「絶対に通すな! ここで蹂躙するんだ!」

「先頭は……オリンピオか!」

「マノーラ騎士団団長、『マノーラの巨匠』覧汰雄燐比緒ランツァ・オリンピオには気をつけろ! あいつの目は見るな! 見たら終わりだ!」

「おお!」

「ちょっと待て! コロッセオの魔法戦士、スコットとカーメロもいるぞ!」

「なんであいつらが!?」

「そちらにも油断するな! 気を引き締めろ!」


 サヴェッリ・ファミリーの手下たちがわらわらと集まってくる。

 彼らはオリンピオ騎士団長に対して強い警戒意識を持っているらしい。

 マノーラ騎士団はマノーラの治安維持組織でありながら、『歩く医者』とも言われて市民には親しまれている。

 そんなマノーラ騎士団の団長をそれほど恐れるのは、その強さを知っているからに違いない。


 ――オリンピオ騎士団長の目の話はリディオからも聞いていないが、なにかがあるのだろうな。


 オリンピオ騎士団長に目を見られたら終わり。

 その意味は察し得ない。

 ただそれは、もしかすると一撃必殺の魔法かもしれなかった。

 だが、オリンピオ騎士団長はまだその力を使わない。背負っている巨大な剣をぐるりと振り回す。

 寄ってきたマフィアたちが吹き飛ばされてゆく。

 魔法を使うのはサツキたちを大聖堂内へと送り出したあと。残ったマフィアたちをここでせき止めるときだろう。


「士衛組の諸君、このまま進むぞ! 大聖堂の入口に来たら、キミたちは突入してくれ! 我々が入口をせき止める!」

「わかりました!」


 クコが答える。

 先頭をゆくオリンピオ騎士団長、そのすぐ後ろにはクコがいて、リラたちほかの者が続く。サツキは最後尾のカーメロの一つ前にいた。だから呼びかけに答えるのはクコだったのだ。


 ――すごいです、オリンピオ騎士団長! 頼もしい背中。このまま大聖堂まで安心して連れて行ってくれそうですね。


 前方の敵をオリンピオ騎士団長が薙ぎ払い、道は作られてゆく。

 しかしここで、長い槍を構えたマフィアが三人も同時に攻撃してきた。

 槍はオリンピオ騎士団長の大剣よりもずっとリーチがある。オリンピオ騎士団長には不利だ。


「オリンピオさん!」


 クコが声を上げる。


「安心したまえ! 《彫刻視スクルトゥーラ・オッキオ》」


 なにかがあった。

 魔法が発動した。

 それは、オリンピオ騎士団長の瞳のそれらしかった。

 槍を構えたマフィアたちのうち、実に二人が石像のように固まってしまったのである。

 残った一人は、即座に左右の二人が固まったことに気づく。


「な、なにィ!?」


 その驚きが隙となり、オリンピオ騎士団長の大剣は長い槍を確実に払い飛ばしてマフィアを弾き飛ばした。


「今のは……」

「私の魔法だ。あとで説明してもいいが、今は話している余裕などないぞ」

「は、はい!」


 クコは返事をした。

 すると今度は、横からの攻撃があった。

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