209 『マノーラウォーク』

 ここからはヒナの案内で進んだ。


「ヒナさん、よく道を知ってますね」

「そりゃあね。あたし、マノーラには住んでいたこともあるんだから。お父さん、大学で先生をしてたときもあって」

「そういえばヒナさんのお父様は、マノーラの大学で教授もしていましたものね」

「うん、そのときは物理学とかを……」


 言いかけて、ヒナはリラに手のひらを向ける。


「はい」


 リラが足を止め、ヒナも立ち止まった。


『ヒナ姉ちゃん。今大丈夫か?』


 そんな声が聞こえたのである。


「大丈夫よ、リディオ」


 突然、『ASTRAアストラ』のリディオからの通信があった。

 離れた場所にいる相手との会話を可能にするのは、

電送作戦トランスミッション》。

 リディオの通信魔法。

 これは電気信号によって行われており、ヒナは初めてリディオがこの魔法を使った際にその原理を解析し切った。

 声を魔力に変換して、それを電気信号に再変換、そして相手に飛ばすのだが、受け取る相手は骨を振動板の役割にして声が聞こえてくるのである。

 ちなみに振動板とは、糸電話における紙コップの底面のように振動を受け取る場所のことだ。

 昨日の夜サツキと話したときには、それは電話によく似たシステムが根底にあると教えてくれたのだった。

 ここで。

 術者のリディオは最初の信号を送れるが、ヒナ側は受動的な立場であり、その信号を受け取るしかでない。つまり電話で言うなら術者のリディオにしか発信はできず、ヒナ側からは連絡をつけられないのだ。リディオからの電波をキャッチして返答して初めて会話が可能となる。

 そのため必ずリディオ側のタイミングで連絡が来るし、それゆえもちろん突然にはなるのだが、こうして連絡が取れること自体が有難いことだった。

 ここまだってサツキたち味方の状況を、リディオを介して知ることができた。またなにかあったらしい。


『そっか。今、だれかといっしょか?』

「リラと二人だけ」

『え、リラ姉ちゃんと? リョウメイさんがいっしょって聞いてたけど、別行動になったのか?』

「そうよ。その辺の説明は省略するけど。それで、用件は?」

『ついにボスの居場所がわかったぞ』

「ふーん。それって、ヴィアケルサス大聖堂?」

『なんだ知ってたのか!』

「あのくせ者陰陽師がそこに行けって言ってたのよ。ただ、ボスがいるかまでは言ってなかったけどね」

『へえ、そうだったのか! あの人、意外と良い人なのかもな!』

「どうだか。まああいつ、あたしには嘘つくかもだけど、リラにはそうじゃないだろうし陥れる感じもなかったわね」

『とりあえず、こっちはそれだけ言いたかったんだ』

「そう。ありがとう。で、その情報――だれが手に入れたの?」

『鷹不二氏だ。それもトップのオウシさん直々に教えてくれたぞ』

「やっぱりあいつらも動いてるってわけね」

『ああ。サツキ兄ちゃんからの言伝だ。鷹不二氏にも碓氷氏にもあんまり恩を作らないようにってさ』

「わかってる。でもそんなの無理よ。まあ、ここからはリラと二人で行くからなるべく関わらないようにするわ」

『おう! それと。サツキ兄ちゃんが、ヴィアケルサス大聖堂に向かってくれってさ!』

「もちろん。そのつもりよ」

『またなにかあったら連絡するからな!』

「頼むわ」


 じゃあね、とヒナが言って連絡が切れる。

 ふう、とヒナはひと息つく。


「まったく……。鷹不二氏も碓氷氏も警戒はしてたわよ」

「ヒナさん。どのようなお話だったのでしょう?」

「聞いてたからなんとなくはわかるでしょ」

「一応……」

「要約すると、鷹不二氏の大将がボスの居場所を教えてくれてたらしいの。それはあの陰陽師が言ってたのと同じ、ヴィアケルサス大聖堂。そこに向かうようにってさ」

「そこに行けば、サツキ様やお姉様も来るんですね」

「クコは赤ちゃんみたいになってるって話だし、そっちは期待しないほうがいいと思うわよ」


 ヒナがイタズラっぽく笑った。

 この段階では、まだクコはサツキと合流しておらず、まだ精神状態も赤ちゃんのままスモモと行動していたのだ。

 リラは楚々と笑い返す。


「そうでした。では、急ぎましょう。みなさんに会うためにも」


 返事しようとすると。

 ヒナのうさぎ耳が、ピクリと反応した。


「来る」

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