208 『ジャンピングビュー』

 上空三十メートルはあるだろうか。

 ヒナがテディボーイのぬいぐるみの大きさを利用して《つき》のジャンプで得た高さは、それくらいになったと思われる。

 見える景色も絶景だった。

 遠くに、目指すヴィアケルサス大聖堂があった。

 ヴィアケルサス大聖堂。

 それは、イストリア王国のマノーラにあって、マノーラとは完全に言い切れない特別な区域である。

 大聖堂の前にはオベリスクのある広場があり、ここも含めたヴィアケルサス大聖堂のエリアは一種の聖域なのだ。

 事実『聖域』と称されている。

 マノーラにおいては文化的にも大事な場所として人々が集い人々に敬われていた。

 そんなヴィアケルサス大聖堂は、実はヴァレンの居城・ロマンスジーノ城の近くにある。城からも西方に見える。

 徒歩十五分もあれば行ける距離である。

 ロマンスジーノ城もマノーラの街並みにおいては大きな城だが、ヴィアケルサス大聖堂はそれよりも少しばかり大きい。なにより面積として大きい。その広さは広場を含めても一辺が500メートルの正方形に近似した面積になる。

 しかも『聖域』とも呼称されるように、特別な権限を持った場所で、マノーラは愚かイストリア王国からも独立した権能を有するのである。それはすなわち、宗教的な場所でその総本山でもあった。

 また、そここそが地動説を敵視する宗教を唱えており、ヒナにとっては敵地への突撃にほからなかった。


「まさに敵地だわ」


 リョウメイはあのとき、「この戦いの中心地――ヴィアケルサス大聖堂へ行けばええ」と告げた。


 ――戦いの中心地……あいつはそう言った。直接ボスの居場所とは言わなかったけど、きっとあそこで戦いがある。


 ジャンプの最高到達点にまできて、落下が始まる。

 ヒナは頭を下に落下しながらリラに言った。


「見えたわよ、リラ」

「……」

「ヴィアケルサス大聖堂が!」


 テディボーイの巨大ぬいぐるみに入ったリラが、手のひらを差し出す。上に向けた手のひらに、ヒナは着地した。

 念のため、《つき》のバネで落下衝撃を弱め、軽くもう一度跳ねて、それから二回、三回とゴムボールが地面への跳ね返りを弱めてゆくようにして手のひらに着地した。

 リラがヒナを地面に下ろして、着ぐるみから出てくる。

 小槌でまた小さくして《取り出す絵本》にしまった。

 そこで、ヒナは改めて言った。ヴィアケルサス大聖堂があった方向を指差して、


「あっちにあるわ」

「はい。テディボーイに気づいてアルブレア王国騎士やサヴェッリ・ファミリーが集まってくる前にここを離れましょう」

「そうね、移動開始よ!」


 二人はヴィアケルサス大聖堂へと向かって歩き出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る