207 『ビッグテディ』
ヒナはリラを連れてリョウメイとヒサシの戦場から離れていた。
角を曲がって彼らの姿が見えなくなると。
一度足を止める。
「ここまで来れば大丈夫ね」
「大丈夫って、なんのことです?」
リラが首をかしげる。
「あんたはあいつら二人共信用してるようだけど、気をつけるに越したことはないわ。特にあのくせ者茶人、ちょっと気を抜くといいようにしてやられるわよ」
「そうでしょうか」
「そうなのよ。でも、そんなことは今はいいの。まずは、ヴィアケルサス大聖堂への道を探すわよ」
「はい! それで、どうやって探しましょう?」
「あたしがジャンプして上空から探す。それしかないでしょ」
「お役に立てず申し訳ないです」
「別にいいわよ。あんたにはあんたにしかできないことをすれば」
「わたくしにしか、できないこと……」
なにかあるだろうか。
まだなにも思いつかないリラに、ヒナはそっけなく、
「どうせサツキがなんか要求してくるわよ。ただでさえあたしもあんたもやるべきことがたくさんあるんだから、無理に考える必要もない。じっくり悩む暇もない。さ、今はあたしの手伝いをしなさい」
「はい!」
ヒナの力になれることがあると思い目を輝かせているリラ。
その視線を一瞥して、
「やっぱり姉妹ね」
とクコを思い出した。
――人がいいというか育ちがいいというか。単に性格がいいのかもしんないけど、こういうところはクコそっくりね。
さっそくリラに指示を出す。
「確か、着ぐるみに入れたわよね。クマのやつ」
「テディボーイですね」
テディベアをモチーフにしたキャラクターである。リラのお気に入りで、この着ぐるみを《
「その着ぐるみで落下するあたしを受け止めるの。いい?」
「わかりました!」
「よし。じゃあ始めるわよ」
「あ。待ってください」
「なによ?」
「《打出ノ小槌》でテディボーイを大きくしたらどうでしょう?」
「確かに。いいわね。どれくらい大きくできるの?」
「正確にはわかりませんが、十倍以上はできるかと」
「あのクマって小さかったわよね。テディベアみたいなもんだし。そんなに大きくできるなら、あたしのジャンプいらなくない?」
「そ、そうかもですね」
あはは、とリラは苦笑いする。
「まあ、あんまり目立つと敵の目にさらされて狙われて危ないし、デメリットも目立つからここぞって時だけ使えばいいと思うけど」
「では、始めていいですか?」
「うん。いつまでも話してても仕方ないわ」
リラは絵本を取り出した。
「《取り出す絵本》に入れていたテディボーイのぬいぐるみを出します」
以前描いて創り出したぬいぐるみを絵本から取り出す。この絵本は物の収納ができるのだ。
続けて、小槌を取り出した。
小槌を振る。
「《打出ノ小槌》さん、お願いします。おおきくなーれ、おおきくなーれっ」
小さかったテディボーイのぬいぐるみがみるみる大きくなってゆく。
高さが二十メートルを超えたところでストップし、リラはテディボーイにチャックを取りつける。
「《着ぐるみチャック》です。この中に入れば、元の物体の性能を再現することもできます。可動できないものだったら動けませんが、硬い物なら鉄壁の守りに。テディボーイは力持ちで動けるぬいぐるみという設定なので、その条件で動けるんです」
「都合のいい魔法道具ね」
ヒナは呆れるやら感心するやらではあったが、リラがその中に入ると、ぬいぐるみは動き出した。
可愛らしい巨大なクマが動いているみたいだ。もしここにサツキがいれば、巨大なロボットとか動物のキャラクターが大きくなったみたいだとか、いろいろな比喩が出てきたことだろう。
テディボーイは手のひらをヒナに差し出す。
そこに飛び乗って、ヒナは高さ十五メートル以上の位置にまで運ばれた。
「近場なら結構見えるわね。でも、もっと遠くも見えないといけないわ。リラ、飛ぶからちゃんとキャッチするのよ」
こくりとテディボーイがうなずく。その仕草も愛らしい。だが、しゃべれないらしい。
「いくわよ。せーのっ」
びょーん、とヒナは《
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます