190 『ラッキーエンカウント』

 ナズナが出会った二人――。

 めいぜんあきふく寿じゅえみせいおうこくの『最果ての村』と呼ばれる星降ほしふりノ村の出身で、世界樹の近くにあるそこで育ったからかどこか不思議な空気をまとっており、常に陽気で神出鬼没、『トリックスター』や『星降の妖精』の異名をとる。

 むろん二人はそんな異名を知らないが、本人たちが意識せずにいたずらに運命を変えてゆくからこその愛称なのである。

 アキとエミには、基本的に目的がない。

 カメラを持ち、写真を撮りながら旅をしている。

 それだけだ。

 一応、気に入った人間を応援することや目的地がアルブレア王国になっていることは特徴ともいえる。

 だから、士衛組を気に入って応援しながら同じ方角へと旅する中で何度も出会って来たのだが。

 このマノーラの戦いでも、アキとエミはなんの事情も知らずに巻き込まれて、なにも知ることなく各地を動き回り、影ながら人々を動かしてきていた。

 実はあれもこれもアキとエミが動いたことで影響を受けて士衛組は敵と遭遇し、あるいは敵と出会わずに済み、連鎖的に別の出会いを生んでいたのだが、それは誰も知らないことだった。

 バラフライエフェクトの如く盤面に影響を与えてゆくアキとエミに直接出会ったのはヒナくらいのもので、このあとまたそのヒナを動かす前に、今度はナズナがアキとエミに会えた。

 二人に出会えたナズナの幸運は、むしろ同行者のオリンピオ騎士団長とエルメーテの幸運と言える。


「やあ! 偶然だね! 私たちはとある戦いに身を置いているんだ」

「今もその戦いの中にいます」


 オリンピオ騎士団長とエルメーテが事情を簡単に述べ、ロレッタが笑顔で言った。


「かくれんぼしてて、みんないなくなっちゃったけど、ナズナお姉ちゃんがいっしょにいてくれてるの」

「そっか! よかったね!」

「ナズナちゃんは優しいね!」


 ロレッタが笑顔でいられるのはここまでのナズナの頑張りのおかげだったが、アキとエミを見たからでもあった。二人を見て安心したのだ。

 それがわかるから、ナズナは謙遜する。


「い、いいえ」


 そして質問した。


「え、えっと、アキさんとエミさんは……どうして、ここに?」

「かくれんぼしてたんだよ」

「そしたら、なんだかすごいことになってるんだよね。あっちこっちが入れ替わってもう大変!」


 二人はおかしそうに声を弾ませる。


「楽しいしやりがいはあるけどね」

「そうそう! ナズナちゃんもロレッタちゃんといるってことは、かくれんぼに参加してる?」

「あ、あの、いいえ……」


 ハッハッハ、とオリンピオ騎士団長が豪快に笑った。


「悪いが、ナズナくんは我々マノーラ騎士団と共に、この街でとある敵と戦っているんだ。マノーラ騎士団と士衛組、そして『ASTRAアストラ』が力を合わせて街の平和を守ろうとしている。そんな中で、ナズナくんは迷子になっていたその子を見かけ、親元に届けようとしていたわけだ」

「ナズナちゃん偉い!」

「偉ーい! でも、だったらかくれんぼって終わってた?」


 エミがそこに気づくと、エルメーテが苦笑交じりに答えた。


「終わってるでしょうね。それどころではありませんから」

「じゃあ、ボクたちも手伝うよ! 街の平和は大事だもん!」

「そうだよ! アタシたちにもできることはあるかも!」


 二人の申し出に、オリンピオ騎士団長はしかとうなずいた。


「キミたちはなぜか、なにかしてくれそうな空気を持ってる! 頼んだよ!」

「はい!」


 元気よくエミがいい返事をして、アキがドンと胸を叩いた。


「任せてください! じゃあさっそくっ」

「行ってみよーう!」


 アキが飛び出し、くるっとエミが回って駆け出し、二人はどこかへ行ってしまった。


「ちょっと待ってください! どこへ行くんですか!?」


 慌ててエルメーテが呼び止める。ナズナもあわあわしてしまうが、アキとエミはちゃんと足を止めて、


「ごめんごめん!」

「うっかり! それで、どこに行けばいいの?」


 これにエルメーテが言いにくそうに、


「それが……この街は今、区画ごとに入れ替わってしまって、どこに行けばいいかわからないのです。僕たちの目的はロレッタちゃんを親元へ送り届けること。次に、敵のボスを見つけてそこへ行って倒し、この戦いを終わらせることにありますが、こちらもまだ……」


 そっか、とエミがつぶやき《うちづち》を振った。


「なんか出てこーい、そーれっ」

「出た!」


 ぽん、と出たのは鏡だった。

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