189 『フライングディスカバリー』
サツキがクコと合流し、スモモの先導でボスの元へと向かう。
それまでの間に、別の場所ではそれぞれに戦いがあって、それぞれの思案と行動があった。
中でも
ナズナには翼がある。
背中にあるおもちゃかぬいぐるみのような翼は、彼女の魔法《天使ノ羽》を稼働するための装置であり、これによって空を飛ぶことができる。
魔法世界でも空を飛べる魔法を持つ人間は数少なく、空を飛ぶことは人類の最大の憧れにも関わらず創造が難しく、希少性の高い代物だった。
その飛行術でナズナは空からなにかを探していた。
「だれか、いないかな……」
空からこの街の変化をいち早く見抜き、それを報告できた功績はすでに大きいナズナだが、今のナズナがもっとも気にしているのは、同行する迷子の少女・ロレッタを親元に届けることである。
地上では、ロレッタのほかに同行してくれているマノーラ騎士団、オリンピオ騎士団長と新人隊士・エルメーテがロレッタといっしょに道なりに歩いている。
「お姉ちゃーん」
ロレッタが空を見上げ、ナズナに呼びかける。
「みつかったー?」
ふるふると首を横に振った。
少し残念そうにするロレッタだが、
「わかったー」
と答える。
しかし、すぐに。
ナズナは道の先にいる人物を見つけて、それが知り合いだとわかる。
「あれって……」
目をこらす。
「うん。……やっぱり、あの人たち……」
士衛組局長・サツキの指示では、このマノーラは今、区画ごとに入れ替わって空間がランダムで移動されてしまうので、仲間と出会えるかは運になる。
だから、仲間との合流は優先するように。
そう言われていた。
『
「今度の角を、右に曲がったところにいる……! 急がないと、先に行っちゃう……」
急降下。
突然、空から高速で飛んでくるナズナに、オリンピオ騎士団長はなにかを見つけたことを察する。
「あ、あのっ……!」
「わかってる! 案内を頼むよ」
「は、はいっ」
ナズナは空を飛んだまま移動を開始する。
上空七、八メートルくらいか。
移動速度は普通の人が普通に走る以上に速く、短距離の全速力よりは遅い。だがそこは身体を鍛えている騎士団の二人であり、オリンピオ騎士団長は四十代の半ばになるか息も切らさず、エルメーテは「ちょっと急ぐからつかまっててね」とロレッタを抱きかかえて走った。
「こっち、です」
声は聞こえていたかはわからない。オリンピオ騎士団長とエルメーテはナズナを目印に走り、角を曲がって、少し走ったところで。
向こうにいる二人の人物の姿をその目に捉えた。
「なるほど!」
「あの二人ですか」
オリンピオ騎士団長とエルメーテの反応をうかがったところによれば、二人もあの人たちを知っているらしい。
――顔が、広いんだなぁ。
ナズナは改めて、それを思った。
また滑空するように空から降りてきて、
「知っているん、ですか?」
「ああ! 我々の友人さ!」
「といっても、僕は割と最近知り合ったばかりだけどね。去年だったかな」
エルメーテが丁寧に答えていると、オリンピオ騎士団長が笑って言った。
「今はおしゃべりをするより、彼らに追いつかないとね! おーい!」
オリンピオ騎士団長が大きな声で呼びかけると。
先を軽快な足取りで跳ねるように歩いていた二人が振り返る。
「ん?」
「あ!」
二人はオリンピオ騎士団長、エルメーテ、そしてナズナに気づく。さらにロレッタにも目をやった。
足を止めて、こちらに手を振る。
「おーい!」
「みんないっしょだったんだねー!」
走って行くみんなを迎えるようにして、二人は笑顔で言った。
「オリンピオ騎士団長にエルメーテくん! こんなところで奇遇だなあ!」
「ロレッタちゃんはナズナちゃんといっしょだったなんてね! みんなそろって、どうしたの?」
そう言った二人は、アキとエミだった。
士衛組とは旅の中で何度も出会った不思議な友人たちである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます