160 『レフトアンドライトアイズ』
――その微笑は、俺たちを試したいという気持ちの表れか。それとも、無理だと思っての嘲りか。でなければ、期待か。
これからおもしろい戦いができるのではないかと、そう思って。
いや、理由はなんでもよかった。
サツキは再び左目を閉じており、これはジェラルド騎士団長に斬られた傷の自己治癒を促すため、左目に埋め込まれた《賢者ノ石》が光り輝くのを見せないためだ。さらに左手を左目に当てて隠していた。
最低限の治癒が済むと、サツキは左手を離して。
「一応、俺は腕を斬られたが《
「ああ、大丈夫だよ」
「よし。じゃあ次の作戦だ。といっても、さっきと同じく、二人でジェラルド騎士団長を攻撃する。俺がジェラルド騎士団長に拳か掌底を叩き込み、まずはミナトの左肘を奪い返す」
「バスターソードの速さもわかってきたし、次は気をつけていきたいね」
「うむ。まあ、気をつけるだけでどうにかなるものじゃないが、こっちは二人いる」
「そうだねえ」
ミナトの《瞬間移動》は惜しげもなく使うとして。
二人いれば、なんとかサツキが一撃を叩き込む余地はありそうだとも思える。先程繰り広げた攻防で、その可能性は感じられた。
「我の支配から逃れることは、何者にもできない。次は、城那皐、貴様の右腕を我が手中に収めてみせようか。いや、その左目が先か」
「!」
サツキは少しだけ目を細める。
――気づかれた。
ジェラルド騎士団長には、左目の秘密に気づかれてしまったらしい。いや、その可能性があるだけで、怪しまれただけかもしれない。
――どこまで読めたかはわからないが、少なくとも怪しまれたようだな。まあ、それも当然か。いちいちこうして左目を抑えるなんて不自然だ。なにかあると思うのが普通だ。だが、左目が肉体の治癒を促す働きがある、とまで見抜いたかは微妙なところ。俺の腕の傷がこうして少しずつ修復してきていても、血が消えたわけじゃない。傷跡も血と服でわかりにくい。まだ開示はしなくていい。
左目の《賢者ノ石》のおかげで、傷をあと少しでも回復させるには時間の経過が有効だった。
だからあえてしゃべって時間を稼いでもよかったが、ジェラルド騎士団長は左目の秘密については問いたださないし分析結果をこれ以上述べることもなかったので、サツキもあえてなにかしゃべろうとは思わなかった。
「俺の《緋色ノ魔眼》はあなたの剣の豪速も見透します。まずはミナトの肘を返してもらいますよ」
「……そうか」
ジェラルド騎士団長はそれだけ言って、剣を構えた。
――
たとえば、未来予知じみた先読みの力。相手の攻撃動作が手に取るようにわかってしまうようなパッシブなもの。反射的な性質をもった超常の業。
右目も緋色であることを思えば、その右目の力がやや引っかかる。けれども左右の目にそれぞれの役割があることは不思議ではないし、然したる問題ではないか。いや、だとすれば右目はその役割の種類と性能によっては未知の危険を有する。
それが一つ目の分析。
もう一つ、可能性の分析がある。
――もしくは、特殊な魔力を蓄積できるのか。
特殊な魔力。
魔力は人によってその特性を変えて発現する特殊なものではあるが、ジェラルド騎士団長はとある情報と結びつけていた。
――部下たちの情報では、城那皐は《波動》なる力を使うらしい。ジェンナーロらとの戦いで見せた、一瞬にして強力な
幸いにして、サツキの左目の自己治癒的効果は看破されていなかった。その可能性さえ悟られていない。
だがそれはただ幸いともいえない。
ジェラルド騎士団長にとって、サツキの左目は真っ先にサツキ本体から切り離すべき見逃せない脅威とみられてしまったからだ。
この分析を客観的に見れば、サツキは己の能力の秘密を隠すことに成功したことになるが、ジェラルド騎士団長の思惑を考えればその危険度はフィフティーフィフティー。どちらに転ぶかわからないものだった。
――あくまでこれらは可能性の列挙でしかないが。ゆえに、だからこそ、城那皐。貴様の左目は早々に処理すべきだと判断する。そのすぐあとには、右目も支配してやろう。
さあ、とジェラルド騎士団長は剣に魔力を集めた。
「あとはすべて、剣で語ろうではないか。城那皐、そして
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます