152 『クリアアイズ』
サツキは閉じていた瞳を開く。
そろそろ、真っ赤にまばゆく光り輝く『賢者ノ石』もその役割を終え、異様な輝きも弱まってきたところだ。
まぶたを閉じてその輝きを秘匿してきたが。
ここまでくれば、『賢者ノ石』のことも悟られまい。
左目の熱も引いてきたし、傷もだいぶ治っているはずだ。
「ジェラルド騎士団長」
サツキの呼びかけに、ジェラルド騎士団長は顔を向けた。
「ようやく目を開けたか。消失点の消失以外にもすべてに対応してみせたその目も、もはや阻害するものはないからな。それで、どうした? 城那皐」
「クコとリラのことです。もし俺たちがあなたに勝ったら、クコとリラの意思を尊重してやってください。反対に、もし俺たちが負けたら、それでもクコとリラを傷つけないでください。あなたにとって、クコとリラは大切な存在だと信じていますが」
ジェラルド騎士団長はサツキの瞳をじっと見つめる。
「言いたいことは、それだけか」
表情は依然変わらない。力強く硬質だった。
しかし感情には小さな揺すぶりがかけられていた。ジェラルド騎士団長は傲然と答える。
「城那皐。貴様の望みは承る。我は王家大事、王家が第一だ。貴様らが勝ったら我は貴様らに従う。それがこの世の理だからだ。また、我が勝ったら王女姉妹に会わせてもらうぞ」
「はい」
サツキの瞳を見て、
――いい目をしている。
と思った。
曇りのない目だ、と感じる。
――これほど清く澄み切った目をしているとは、ついに今までわからなかった。
さっきまで、サツキは目を閉じて《
――だが。貴様の瞳は信頼に値するが……。智者であるとも聞く貴様ゆえ、考えねばなるまい。
むろん、考えるのはサツキの条件についてだ。
条件を呑むことに異論はない。
ただし、駆け引きや策略である可能性もまた存在する。
――貴様の出したその条件、我にとって都合が良すぎる。勝っても負けても悪いことにはならない。なにを考えているのか。……否、王女姉妹のことを考えているだけなのだろうか。
王女姉妹がこの少年たちの組織に洗脳されていないのなら、それだけで答えは出ている。ジェラルド騎士団長は王女姉妹の助けになるべく動くだけだ。そのためにもひと目でいいから王女姉妹を見ておきたいところだが。
――しかし、戦いは止められない。真実を正しく知るためにも、我がより正しい判断をするためにも、力で負けてはならない。勝って、自らの意志で判断し決断する。
そう答えは出ていた。
ただし、わずかな揺さぶりはジェラルド騎士団長の無意識に働きかけられている。
絶対に勝たなければならないことは、強固な意志で確信している。それは意識下のことで、無意識ではサツキの瞳と言葉を信じたくなっている。
それというのも、仮に負けても、王女姉妹が悪いようにされないとわかるからだ。サツキの瞳を見て彼を信じられると直感してしまっているのだ。
しかるに、ジェラルド騎士団長は次の言葉が出なかった。
戦闘開始を告げる言葉が出てこない。
けれどもそれらは、サツキの策略にもないことで、かつジェラルド騎士団長自身も気づいていないことだから。
双方の戦意は本物でいつ戦いが始まってもおかしくなかった。
そしてその火蓋を切ったのはミナトだった。
「それじゃあやりましょうか。僕は一人の剣士として、あなたに勝ちたいってうずうずしてるんです」
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