153 『アミークス』

 ジェラルド騎士団長はミナトに視線を戻す。


 ――『神速の剣』いざなみなと、貴様も美しい透き通った目をしているな。ただし、貴様のそれは妖しく危険過ぎる。しろさつきがグランフォードの愚直さに似ていると言うのなら、貴様は流水の如くありながら恐ろしい、かの軍師に似ている。我とグランフォードの才を見出した我らが友人、ロドリーに。


 アルブレア王国騎士の頂点、すべての騎士をまとめる総騎士団長・グランフォードと軍師・ロドリーの二人は同い年で、ジェラルド騎士団長の一つ上になる。

 そんな懐かしき友人らを思い出すほど、サツキはグランフォードにどこか似ていて、ミナトはロドリーに少し似ていて。そんなミナトには不思議な清流が通いながらも妖しい恐ろしさがある気がする。


 ――とはいえど。誘神湊はロドリーと違い戦術家ではなさそうだ。その役割は城那皐が担っているとみた。では、なにがロドリーに……いや、まとう空気感だ。穏やかで、それでいて、恐ろしいまでの切れ味を見せることがある。ただそれだけかもしれない。


 これで。

 ジェラルド騎士団長の中での人物評は終わる。

 終えねばならなかった。

 深みにはまりそうなほどに、ミナトには得体の知れない、見えないモノが眠り過ぎている。

 それが感覚でわかった。


「では、我は最初から魔法も用いて戦おう。来るがいい」

「ええ。遠慮なく」


 ニコリと頬笑み、ミナトは緩やかに右手を動かし、ひたと刀に手を添えた。


「いざ、尋常に」


 ミナトが刀を握ったのと同時に。

 姿が消えた。

 消えたのと別の場所で姿が現れたのもまた、ほとんど同時だった。


「《天一神なかがみ》」


 力強い一点突きが繰り出される。

 これをジェラルド騎士団長は剣で受ける。

 大きな剣で、それはバスターソードと呼べるものだった。

 扱うには腕力とバランス感覚が必要だが、ジェラルド騎士団長は悠々と、かつ高速で動かして防御に使った。

 しかも、ミナトの神速を相手に。


「……」


 サツキは黙ったまま、瞳を緋色に染めて立ち尽くす。


 ――強い。あの重く大きな剣で、ミナトの《瞬間移動》に対応して防御できる人などそうそうない。


 観察するサツキ。

 ミナトは初撃を防がれても即二撃目を放つ。


「《てんらんつい》」


 その声がジェラルド騎士団長に聞こえたとき、ミナトはもうジェラルド騎士団長の真上にいた。

 天から三段突きが降ってくる。


「ふん!」


 剣で振り回してミナトを跳ね返すためのカウンターで応じる。

 カウンターと呼ぶには、防御を捨てた返し技だった。

 しかし、剣の大きさが防御断面を広く取り、上空からの三段突きをパワーで圧し、剣はミナトへと伸びる。

 剣がミナトに届く直前、


「《てんなぎ》」


 ミナトはすでにジェラルド騎士団長の膝下にしゃがむようにして構えており、高く払うような一刀がジェラルド騎士団長のバスターソードへと迫ってゆく。


「ゼアァァ!」


 ジェラルド騎士団長は、振り上げた剣を真下に落とす挙動に切り換える。

 速さはミナトが上に思えた。

 しかし、ミナトの刀がバスターソードを捉えるよりも先に、バスターソードは確かに軌道を変え振り落とす格好になっており、ここからパワーの勝負になった際、いくらミナトが先制して勢いをつけてそれをパワーに変えていても、ジェラルド騎士団長のパワーには及ばなかった。

 ミナトは即断、刀の軌道をずらして、自身は身体の重心を移動させバスターソードをかわそうとする。


「《独裁剣ミリオレ・スパーダ》」


 サツキは目を見開く。

 ジェラルド騎士団長の魔法が発動したのだ。

 剣に魔力が集まり、剣先がミナトの左の肘を貫いた。

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