151 『アラウンドアプローチ』
ジェラルド騎士団長は、ミナトの《瞬間移動》をおおよそ読めていた。
高速で移動できる移動系の魔法。
それは、ほとんどそのままミナトの《瞬間移動》の性質を言い得ている。
細かな条件を理解し抜いているわけではないだけだ。
「目にも止まらぬ速さでの移動。それが貴様を『神速の剣』と呼ばせている。そして、それによってマサオッチの後ろへと回り込んだのだろう。移動開始直前、城那皐に触れたことから、貴様が触れた相手や物も同時に移動可能とみた」
事実、そうだった。
詳しく言えば、サツキを連れて、五回ほど《瞬間移動》を繰り返してマサオッチの後ろに回り込んだ。
《
だから、《瞬間移動》の繰り返しは、向きの問題への対策になる。別角度から近づくこと、それすなわち、遠近感が奪われ過ぎずに、《
後ろに回り込んだら、あとは、背後から狙いをつけられる。
そうした細部はさておき、細かな条件もさておいて、ジェラルド騎士団長はおおよその正解を口にした。
サツキは内心では「ご名答」と言えるが、あえてなにも言わない。
ジェラルド騎士団長は続ける。
「別に、正否は問わない。その前提で戦うのだ。それを、ここに宣言しておく」
宣言。
――宣言、か。それは時に意味を持つ。たとえば、じゃんけんでどの手を出すかを宣言することは、駆け引きの一つだ。
しかしこの宣言に意味などないように思われる。
本当に意味はないかもしれない。
ただ、そうとも言えない部分もある。
――ジェラルド騎士団長がミナトの魔法を見破ったに近い状態であることと、宣言通りの構えで戦うことが隙のなさにつながることを思えば、ミナトも迂闊な《瞬間移動》はしづらい。手の内は晒したくないからな。
ここまで《瞬間移動》について読まれていれば、披露する数が増えることは手の内を晒すことに直結する。
サツキが慎重にジェラルド騎士団長の言葉を咀嚼する傍ら、ミナトはそんなこと気もしていない飄々とした顔で、
「ああ、そうだ。一応聞いておきますが」
「なんだ」
「二対一での戦いはフェアじゃないとも思うんで、僕ひとりのほうがいいですかい?」
自信満々に見えたことだろう。
あるいは、甘く見られたか、一対一を好む武士道に見えたかもしれない。剣士とはかくなるものだと、追従してみせたとも取られかねない。
しかし、ジェラルド騎士団長は感情を見せずに答えた。
「いいや。構わん。二人で来い。我が『瞳の三銃士』を相手に、城那皐も充分戦ったあとだ。いくら傷が多少回復してきているにしても、二対一でもフェアとは言えない。我は貴様ら二人と同時に戦うことを望む」
「わかりました。そう言うからには、僕も遠慮はしませんぜ」
「そうしろ。貴様は今、我を前にしている。すなわち、手加減できる立場にないのだからな」
「僕もせっかくコロッセオでダブルバトルを経験して、サツキといっしょに戦いたかったんです。それでもサツキは手負いだし、ちょうどいい。僕は手加減なんてしやしません」
丁々発止をしていられるミナトと異なり、サツキは浅く息を吸い、小さく息を吐いた。
――二人でも厳しい相手だ。ジェラルド騎士団長……覚悟して戦う必要がある。
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