144 『エキサイトオーディエンス』

 ロメオは言葉を続ける。


「さて。そこで、クロノさんに相談したところ、本日のシングルバトル部門の試合後、三試合をワタシのために用意してくださるとのことです」


 あの『バトルマスター』ロメオが来たからには、ロメオの試合が見たい。それはすべての人が思っていることだ。

 だから会場からはまた空が割れんばかりの歓声が上がった。


「やったぜ!」

「ありがとうロメオさーん!」

「三試合もしてくれるって、最高かよ!」

「こりゃあ今日は最後まで帰れねえな!」

「帰るやつなんかいるかよ! 料理のフルコース頼んで前菜だけ食べて帰るやつを見たことあるか?」

「ああ! ロメオさんが試合するってのはそういうことさ!」


 再びクロノがしゃべる。


「ロメオさん、本当にありがとうございます! 昨日もロメオさんは決勝の前に試合をしてくれましたが、まさか今日もしてくださるとは! いやはや、ロメオさんの試合は何回だって嬉しいですからね! しかし、今日は実力者と戦ってもらいたいと思っています! 本日の試合で勝利した魔法戦士の中から希望者を募り、ロメオさんが選んだお三方と試合をしていただきます! それでよろしいでしょうか?」


「はい。構いません」


「さあ! ロメオさんの了解も得られました! これは本日参加の魔法戦士たちも気合が入ります! ロメオさんに試合を見てもらえるだけでも張り切るところ、もしかしたら試合ができるかもしれないのですから! 昨日今日とこんなワクワクできるなんて、ワタクシ・クロノは司会者冥利に尽きる思いです! しかしいつまでもしゃべっているわけには参りません、これから始まる試合でだれがロメオさんに挑戦する切符を手にするのか! どの試合も見逃せないぞ! 魔法戦士ひとり一人を、会場もしっかり見定めてくれー!」


 クロノもうまいこと会場を乗せている。

 ロメオの試合だけ見られたらそれでいいという気持ちになりかける人たちも、そのロメオと戦う人がだれになるのか、興味を煽るようにしてみせる。


「というわけで。ロメオさんにはそれまで試合をご覧になっていただきたいと思います!」


 ロメオが軽く手をあげ、


「クロノさん、一ついいですか」


 と聞くと。

 はい、とクロノはマイクをロメオに向けた。


「ワタシの一存で選ぶのは二人、残る一人は客席のみなさんの声で決めたいと思いますが、よろしいでしょうか」


 これを、すぐにクロノは咀嚼する。


「つまり、オーディエンスで選出するということですね! もちろんです! さあ、これは客席のみなさんもだれを選ぶのか楽しみになりましたね! 試合後、ロメオさんが二人を選びます。その後、ワタシが一人ずつ魔法戦士の名前を挙げていきますので、客席のみなさんは拍手と声援で答えてください! 最後の一人はその声が大きかった方にしたいと思います」


 話がまとまると、ロメオがマイクを受けて会場に声をかけた。


「それでは、みなさん本日もコロッセオを楽しんでいってください。ワタシも楽しませてもらいたいと思います。では、のちほど」


 ロメオが舞台から下りていく。


「本日コロッセオにお越しくださった幸運なみなさん! 今日は最初から最後まで盛り上がっていきましょう! 観客席参加のイベントもあるから、一試合も見逃すなよー!」


 かくして。

 ロメオはコロッセオにとどまり、リディオからの連絡を受け取り、リディオを通して情報をまとめ、リディオを介して『ASTRAアストラ』全体に指示を与えてゆくのだった。

 これによって『ASTRAアストラ』は混乱少なく動いているが。

 ロメオら『ASTRAアストラ』中枢メンバーが拠点とするロマンスジーノ城では、二人だけが残っていた。

 城の管理者をしている老紳士・井空蔵途イゾラ・グラートと、士衛組の料理人・だいもんばんじょうの二人である。

 最初、二人も外がどうなっているのかわからなかった。

 だが、リディオからの連絡を受け、グラートが状況をバンジョーに説明した。


「――ということのようです」

「なんだかわからないッスけど、オレも戦ったほうがいいみたいッスね!」

「いえ、この城を守るのを手伝っていただけるとありがたいです。ここには『ASTRAアストラ』の保管する重要な情報がたくさんありますから」

「押忍! わかりました! じゃあ、敵が出てきたらオレが戦います!」

「ありがとうございます。おそらく、サヴェッリ・ファミリーもこの城を狙うことでしょう。敵の拠点を潰すことは大事ですからね。そう時間もしないで、攻めて来られるのではないかと」

「オレ、先生に鍛えられてるんで! 任せてください!」


 それからまもなく。

 ロマンスジーノ城にも敵が攻めてきた。

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