143 『スペシャルゲスト』

「さあ! やってまいりました! 午後の部! ああ、早く話したい! 今日は特別ゲストもいるのでね!」


 早足に舞台へと歩いて行くクロノ。

 観客席では、


「特別ゲスト? だれだ?」

「もしかして、昨日の『ゴールデンバディーズ杯』優勝のあの二人」

「サツキとミナト!」

「そうだったら熱いよな!」

「でもあの二人、いやミナトは平気そうだったけど、サツキのほうは満身創痍だったし今日は試合なんて無理だろ」

「じゃあ、ミナトの試合?」

「それは見たい!」

「な!」

「まさかレオーネさんやロメオさんが連日来てくれるとかだったら、おれひっくり返っちまうよ!」


 などなど。

 様々な声が飛び交う。

 クロノはステージへの階段を上がってゆく。

 ステージは、正方形の石畳が敷き詰められた真四角の舞台であり、高さは一メートル五十センチほどある。

 ようやくクロノが舞台にのぼり、中央に。

 そして、マイクに声を吹き込む。


「みなさんがだれを予想しても、期待を下回るなんてことはないでしょう! なんて、無駄話はこれくらいにして、さっそく始めましょうか!」


 マイクは、水色の丸い貝殻である。これに声を吹き込むと、それがマイクになって会場全体に広がる。この貝はすいきゅうがいと呼ばれるめずらしい貝殻で、これを媒介に、クロノは魔法《アリア・フォルテ》で実況するのだ。

 ここコロッセオにおいて、『司会者』クロノは、実況もこなすリングアナウンサーも兼ねたレフェリーといえる。タイムキーパーも彼の仕事だ。

 なにより観客たちは彼に盛り上がる実況を求める。


「本日もお越しいただきありがとうございます! これより、午後の部、魔法戦士たちの戦いを始めます! 司会はワタシ保見黒野フォーミ・クロノが務めさせていただきます! プログラムとしては、『ゴールデンバディーズ杯』の翌日ということで、ダブルバトル部門はお休みになります。かわりにシングルバトル部門が二十戦以上もあるぞー!」


 二十戦というのは、コロッセオにしてはかなり多い試合数になる。

 だから観客席の盛り上がりもなかなかだった。


「そしてそして! 今日は特別ゲストが来ています! この方です! どうぞー!」


 クロノの合図で、ロメオが登場した。

 舞台へと向かって歩いて行くロメオ。

 それに気づいて、観客席は地響きがするかの如き熱狂に包まれる。




「うおー! ロメオさーん!」

「ロメオさんステキー!」

「マジかよ、マジでロメオさんが来てるのかよ!」

「最高! ロメオさんを見られるなんてラッキー過ぎ!」

「確かにこれ以上はないよな! コロッセオ最強の『バトルマスター』だもんな、期待以上だぜ!」

「るおぉぉめおすぁぁあん! オレだー! 結婚してくれー!」


 歓声に応えるように、ロメオは手をあげて会場のあちこちへと顔を向けて歩いた。

 ロメオがクロノの近くまで来ると。

 クロノが紹介した。


「特別ゲストのロメオさんです! 言わずと知れたコロッセオのスーパースター! コロッセオ最強の男! 天下無双の『バトルマスター』だ! そんなロメオさんが今日は特別に来てくれたぞ!」


 紹介を受け、ロメオはクロノに向けられた水球貝に声を吹き込む。


「みなさん、本日はお越しくださいありがとうございます。ワタクシ狩合呂芽緒カリア・ロメオは、元々本日試合の予定もなかったのですが、昨日の『ゴールデンバディーズ杯』で優勝したサツキさんとミナトさんの試合を見て、気持ちが高ぶってしまって、いてもたってもいられなくなり、ついここに来ていました」


 そこで言葉を切る。

 今日ここに来た人々の中にも、昨日の『ゴールデンバディーズ杯』を見た人はたくさんいる。

 コロッセオファンは優勝したサツキとミナトのことを当然覚えているし、昨日ぼんやりと覚えた人もいるだろう。

 そうしたコロッセオの観客に向けて、今一度ロメオはサツキとミナトの名前をピーアールしてあげたのである。

 ただ、それは単なるおまけであり、本題はここにいる人々をなるべく外に出さないよう、帰りたくなくなるよう、この日のコロッセオを楽しませることにあった。

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