136 『アイロニーヘルプ』

 本当の本当のことを言えば、リョウメイはやはりくせ者だった。

 リョウメイは主君・スサノオと碓氷氏の利よりもリラとサツキとミナトへの友情を重んじて行動しているが、やはり裏はある。

 当然それは、リラとサツキとミナトを軽んじるものではない。

 しかしやはり、裏というものは表の反対といった単純極まることではなく、いくつかの打算と理性から導かれる。

 今でこそ、冷たく計算して誰も彼をも揶揄したような結果が呼び込まれたものだが、偶然は時にそうしたストーリーラインを描いてしまうものなのである。

 役者がくせ者ならそんな筋書きも計画的に見えてしまう。

 ただ、リョウメイはいたずらにそんな邪推をされようが悪意などない。

 すこぶる健全に、友情を重んじて、かつ主家への利を大切に頭の片隅においておいただけであった。


 ――悪いな、リラはん。うちは知っとってん。玄内はんが封じ込められるっちゅう事態になることは。敵に玄内はんの存在が知られていないはずもなく、であれば抑えておくのが当然の処置で、式神を使って人も使って調べたところによるとやっぱりそうしたらしいとわかった。けど、うちは玄内はんがそうなるとわかってなんの助けもしなかってん。


 つまりは、玄内が封じ込められることを知っていながらスルーしていた。

 助力することができるのに、なんの策も講じなかった。

 そもそもその段階ではリラたち士衛組に再会もしていなかったし、協力を頼まれたわけでもなかった。

 しかし助けないという選択は、友情に反するものだと言われても仕方ない。

 それでも助けるつもりはなかった。

 なぜなら、玄内がいたらこのマノーラで起こると事前に占った襲撃もあっけなく片づく可能性があり、玄内が表立って活躍しなくとも、サツキたちのピンチが減ってしまうからだ。士衛組内での玄内の姿勢も読める以上、玄内がサツキたちのサポート役でしかないことも織り込み済みだが、そのサポートが時に強力過ぎるのである。

 ゆえに。

 サツキたちが危機に陥れば陥るほど、リョウメイの出る幕があって、感謝も大きくなる。引いては大きな恩を売れるというものなのである。


 ――あの時助けなければ、玄内はんが行動できなくなるとわかっていた。呪術的なものやから専門外やし、玄内はんも容易には解除できん。だからあえて放っておいた。そしてその通りになり、玄内はんには静かに待機してもらって、うちらが動けてるわけや。


 だが。

 この広いマノーラで、式神を使って結界が張られた場所を特定できることも、その場に辿り着けることも予想外であった。


 ――それにしても、リラはんを伴って、この偶然が偶然で塗り重ねられるランダム生成の空間で、玄内はんを助けられるチャンスが来るのはえらい幸運やったなあ。リラはんっちゅう観客がいなければ、うちの活躍もわかってもらわれへん。リラはんが見ているからこそ、うちへの感謝も大きゅうなる。ほんま、ありがたい巡り合わせやで。


 したがって。

 リョウメイが士衛組と玄内をあざ笑うように揶揄するように踊らせているかに見えるこの展開も、筋書きなどほぼない偶然のたまものなのであった。


 ――はてさて。リラはんにはあれを描いてもろうた。あとは、仕上げやな。


 準備が整った。

 あらかじめ、リョウメイはリラから彼女の魔法に関しては聞いていた。すべてではないが、簡単には知っているのである。リョウメイはそのリラの魔法を戦術に取り入れたのだ。

 声をかける。


「リラはん。あの馬車を守っとるお相手の数は五人や。まず、うちが出ていくからあとは頼むで」

「はい。任せてください」


 小さく微笑むと、リョウメイはふらりと散歩でもしに行くかのような気軽さで、サヴェッリ・ファミリーの構成員五人の前へと歩いて行った。

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