135 『コンファインメント』

 ルカが玄内と合流し、ヤエが状況を話す。

 その少し前。

 つまり、玄内がサヴェッリ・ファミリーの手によって馬車から外に出られなくなっている間のこと。

 一応注釈しておけば、玄内は自分の研究のために馬車から別荘に行っていたのだが、戻ろうと思って戻れなければ、戻る手立てを用意することはできるほどには魔法の種類を所持しており応用できるので、玄内が出てこなかったのはタイミングの問題でしかなかったのだが、それを言えばここからの話はなんの意味もなかったことになる。

 しかし、玄内が「余計な手間をかけずに出られた」と言うように、手間暇かかることは望ましいはずもなく、玄内が恩を感じるのは当然のことであり、その点さえ抑えられれば『彼』は玄内のために玄内の代わりに手間暇かけた甲斐はあったのである。

 前書きを終えて。

 マノーラのとある通りで。

 碓氷氏の軍監にして、国主・スサノオの参謀役である『大陰陽師』は数珠をじゃらっと鳴らした。


「ちょうどいいいわ。ここで一つ、お助けしたるか」

「お助け、ですか?」


 急な提案に、あおは首をかたむける。

 まだなにを言わんとしているのか、リラにはわからなかった。

 が、この陰陽師は陰陽術で未来の良し悪しが視える。

 つまり、なにかが視えたということだろう。

 ゆえに玄内を一種の監禁状態から解放することになる『彼』こと、『大陰陽師』やすかどりようめいはさらりと答えた。


「勝手に助かるお方でもあるねんけどな」

「えっと……? リョウメイさん、それで、だれをお助けするのです?」

「うちの占いによると、このあたりに士衛組のお偉いさんが監禁されとってな。そのお方が外に出られへんようになっとるらしいねん」

「監禁、外……それって、玄内さんでしょうか」

「せや」


 リラの記憶では、玄内は現在、馬車に取りつけたドアノブ《黒色ノ部屋ブラックルーム》を通って、別荘に行ってそちらで研究をしている。

 だから、監禁の意味もわかる。

 馬車がなんらかの制限をかけられ、玄内は馬車に戻れないか、戻れても外には出られなくなっている、ということだ。

 続きを聞こうとするリラに、リョウメイはおどけるように、


「……せやかて、リラはん。こんなこと占いでわかるわけないやろってつっこむところやで」

「え? わからないんですか?」

「普通、占いでわかることやない。うちの場合、《ようかいがくこう》でいろいろと探れることもあるんどす」

「なるほど、魔法でしたか」


 あんまりに素直なリラがおかしくて、リョウメイはククッと笑った。


「で。《かい》で未来の良し悪しを視る以外にな、《けっかい》で怪異による結界を張ったりもできんねんけど、逆も然りでな、結界が張ってあるのもわかるねんか。それによると、この先にそないな場所があるんやって」

「その結界が、玄内さんを」

「せやな。正確に言えば、士衛組はんの馬車がそのまま敵の手に奪われ、封印されとるようなもんや」

「では、それを取り返すのですね!」

「同じ王都護世四天王のよしみで、解放したろう思うてな」

「ありがとうございます!」

「気張っとるな」

「はい、わたくしも士衛組の一員として、みなさんの力になりたいですから!」

「はは。その意気や」


 風変わりな道連れと共にいるリラだが、リラはこの敵か味方かも判じづらい初見ではだれもが警戒するような陰陽師を、心から信用していた。

 そして、リョウメイもまたリラを悪いようにするつもりもなかった。

 士衛組みんなに善意だけで付き合うつもりもないが、リラとサツキとミナトのことは友人として損得なしに協力する所存なのである。


「さて。そんなら、リラはんにはちと手を貸してもらうか」

「はい! なんでもおっしゃってください」


 仮面のようなメガネの下で、リョウメイはにこりと微笑んだ。


「ほんなら。あれを描いてもらいたいねん」

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