137 『スマートハンド』

 つかつかと前に進み出て。

 気安く話しかける。


「ちょい失礼します」

「だ、だれだ!」


 急なリョウメイの登場に、サヴェッリ・ファミリーの一人がとがめるように言った。


「うちはやすかどりようめいいいます」

「おれたちになにか用か」


 荒っぽいしゃべり方にもひるまず、リョウメイはへらへら笑って、


「その馬車を返してもらお思てな」

「関係ないやつが出てくるところじゃねーぞ」


 別の人間がドスを利かせて肩を怒らせた。

 しかし、やはりリョウメイは飄々としたままで。


「なんや偉い不機嫌そうどすなあ。うちはなにもケンカしにきたわけやなし。穏やかぁにいきましょ」

「そんな交渉でおれらとやり合えると思ってんのかよ!」

 ついに怒鳴ったサヴェッリ・ファミリーの構成員。


 リョウメイは肩をすくめてニヤニヤ笑った。


「お話にならんのやったら、おしゃべりも仕舞いや。力尽くやないと返してもらえへんのなら、しゃあなしやで」

「諦めるか? それとも、やるか?」

「おしゃべりはせんていうてるやろ」


 と、リョウメイは丁寧に言葉を返す。

 そして。

 サヴェッリ・ファミリーの構成員の一人の身体に、腕が生えた。

 生えた腕はポケットから銃を取り出し、ひょいとリョウメイのほうへと投げ捨てた。


「なんだ?」

「腕が、生えた!?」


 次には別の構成員の身体に腕が生えて、またもや銃が抜き取られて投げ捨てられて、もう一人も同じように銃が取られてしまった。

 呆気に取られているのは三人だけで、残る二人はすでに銃を手にしており、臨戦態勢だった。二人はリョウメイに狙いをつけて構える。

 が。

 構えただけで終わった。

 肩から生えた腕が手首に手刀を落とし、銃が落ちる。

 もう一人も同じく銃を取りこぼした。


「く、なんで撃てなかったんだ!」


 いつもなら撃てたくらいの時間はあった。

 それなのに、撃てなかった。

 その上、銃を拾おうとかがんだときには、膝から生えた腕が地面に落ちている銃を払ってリョウメイのほうへと飛ばす。


「ほんま賢いお手々やで」


 リョウメイの魔法、《第三ノ手スマートハンド》。

 人や物から好きに第三の手を生やすことができる。

 賢いお手久々だから勝手に判断して動いてくれるため、リョウメイはなんの指示も出していない。

 ただ生やしただけだ。

 生やしたらあとは仕事をしてくれる。

 仕事をしたら引っ込めて次に移る。


「一応、剣も扱えるんで。お相手したるわ」


 混乱して動けなくなる者が五人中二人、残る三人はナイフや素手でリョウメイに襲いかかってきた。

 これに、リョウメイは抜刀してみせる。


「ほんまええ刀やで、『しょだいせんしゅう』。さすがは最上大業物十二振りのうちの一振りやわ」


 いなすようにナイフを軽々と弾き、素手の相手には思い切り袈裟斬りする。


「人を殺すんは鬼の所業や。生かしたるからおねんねしとき」


 殺しはしない。できない。

 そういうルールになっている。

 もう一つ付け加えると、この場では銃も撃ってはいけないし、嘘をついてもいけない。

 それがルールであり、禁則事項なのである。


 ――やっぱり便利やわ、《鍵付日記帳ロックダイアリー》。日記帳に書いたことを自分と周囲に禁止するわけやけど、殺してはいけないとなれば、殺さない範囲での攻撃になる。殺すつもりで斬っても死なないでくれる。実際は、心臓を刺そうとすればその行動は取れなくなるわけやけど、ただ斬る分には適当でええねんか。発砲を恐れる必要もないし、気楽やわあ。


 リョウメイは、瞬く間に五人を斬り伏せてしまった。

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