129 『カラーバリエーション』
医者として。
その理由だけで、ルカに個人的な肩入れをするのは、ヤエにしてみれば普通のことだった。
むろん、サツキとリラのことを気に入っているのも本当だった。
だから。
――時に恐ろしいと感じるほど、大将たちの知略は凄まじか。これにルカちゃんたちが巻き込まれて傷つくこともあり得る気がして、ついあげなこと言うてしまったな。
ルカは心からのヤエの助言を素直に謝した。
「そうでしたか。ありがとうございます」
しかし、ルカの本心まではわからない。
本心から、素直な感謝だったのかは定かではなかった。
――それはそれとして。ドアノブの色、あれはなんやったんやろう。
戦闘中、ルカが使ったドアノブは金属製らしい銀色だった。
そのあと同道していたときに壁に取りつけていたものはというと、紫色をしていたのである。
――銀色と紫色。これは色によってなにかが違う効果ば発揮しとるて思えるけん……。本人が言わんなら、聞かないでおいとくのがよかね。
わざわざ聞き出すのは友好的な意味からもマナーからも好ましくない。
魔法世界において、魔法の情報は命にかかわることもあるため、相手から話されない限りは聞かないのが暗黙の了解になっているのだ。
――ばってん、あたしも鷹不二氏の人間やけん。あとで報告だけはさせてもらうね、ルカちゃん。
忠告はした。
だから。
ヤエは心の中でも謝罪などしないで、そう思うのだった。
「ここにもつけておきます」
ルカはまた壁へと歩く。
ドアノブを取りつけた。
やはり色は紫色。
そもそも、ルカの《
金銀銅と白と黒。
金銀銅がただの部屋を創って、それぞれ大きさが異なるのだが。
白はどこまでも果てしなく、文字通り果てなどなく、どこまでも続く、無限に広がる空間への扉になる。士衛組の修業用空間でもあり、《無限空間》と呼んでいる。
そして黒は別の空間とつなぐ扉。
士衛組では玄内の別荘とつなぐ扉が馬車に取りつけられており、馬車の旅でもその別荘でお風呂もお手洗いも洗濯も料理もできてしまえる。
しかし。
今ルカが使っているドアノブの色は紫。
「取りつけ、完了」
ルカはヤエの横に戻る。
――ヤエさんには悪いけど、いくら私に好意を持っていて、そこに裏がないかもしれなくとも、この魔法の詳細は教えられない。
《
――教えて他人に話す人じゃないでしょう。でも、この戦場、特にこのマノーラでは、どこでだれが話を聞いているかもわからないわ。
どんな魔法でどこに潜伏しているのか。
どれだけ警戒しても充分ということはない世界なのである。
――そもそも。今のところ、士衛組のだれにも話していないのよね。《
紫色のドアノブ、《
それは、空間をつなげる魔法の応用だった。
元々、ルカは空間をつなぐ
しかしそれだけだった。
そこに、気質の近い《
そんな折、ルカはサツキたちと共にレオーネに《
マノーラにいる期間中、一日一回これをしてもらえるのだが、ルカはすでに何段も潜在能力の階段をのぼった。
それによって、ルカは《お取り寄せ》を《
空間をつなぐ魔法を扱えるルカだからできた、魔法の進化だ。
これこそが《
――実際、《
たとえばこの場合、馬車の中が建物の中と言える。玄内の別荘に訪れた客が、《
――みんなにはナイショで、私だけ
でも、それはこうした用途のほかに応用力を持たないことを意味する。
応用力がなくても問題はないはずで、この魔法をルカに譲渡した玄内もそこに意味を見出そうともしなかった。
しかし、ルカは早くから《
その結実が、新たなドアノブ《
ただし、条件も存在する。
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