128 『セッティングドア』

 かくして『水軍司令ネイヴィー・コマンダー』ビーチェとの戦闘の回想が終わり……。

 ルカとヤエはマノーラ騎士団の治療も終えると、次の仕事を探して歩き出した。

 チラッと、ルカはヤエを横目に見る。

 その視線に気づき、ヤエはニコッとした。


「どげんしたと?」

「……いえ。その、ヤエさんの医術の腕がすごかったので。勉強になりました」

「ありがとう、ルカちゃん」

「私はまだ、医者を志しているだけで経験もまだまだで」

「そげなことなかよ。ルカちゃんは手際がよかし、判断も速いけん。よかお医者さんになると思うな」

「そう言っていただけると……ありがとうございます」


 士衛組にとっては仲間とも言える協力組織、鷹不二氏。

 まだ会って二度目のそんな微妙な距離感の相手だから、ルカはヤエを尊敬してもうまくしゃべれなかった。

 元々しゃべるのは得意じゃなかったのだ。

 それが、サツキや気心知れていたクコとリラ、それに士衛組のみんなといたおかげで、自分が口下手なほうだったことを忘れていた。


「あと。ずっと気になっとったことがあるけん。聞いてもよか?」

「……なんでしょう」


 場合によっては答えられない。

 ルカが警戒しながらヤエを見ると。


「さっきから何回も適当な壁にドアノブばつけとったけど、なんしよーと?」

「……」


 これについては、別に隠すつもりはなかった。

 聞かれなければ言うつもりもなかったことだが、あえて自分から言うにはそのタイミングになってからで充分だと思っていた。

 でも今聞かれたからには今答えるのもやぶさかではない。


「端的に言えば、みんなと合流するための下準備です。魔法……先の戦いで見せた《拡張扉サイドルーム》の応用のようなもので」

「《拡張扉サイドルーム》……そっか、ドアを創って攻撃を回避した魔法やね!」

「ええ。あれはドアを創る魔法なんです」

「へえ」

「そして、私がさっきからドアノブをつけて回っていたのは、ドアを創るため。別の空間とつなぐため。つなぐドアを創って、移動するためです」

「すごかね!」

「そのためには、ドアノブが二つ必要になります。対になる二つがあって、それらを壁に取りつけます。厳密には地面でもいいですし、壁は湾曲していてもいいです。ドアとして充分な面積がある場所ならなんでもいい。ただし人体には取り付け不可」

「いろいろ条件もあるんやね」


 相槌を打ちつつ、ヤエはルカの言わんとしていることがわかった。


「つまり! いろんな場所に出入り口を創って、そのドアを渡り歩いて、仲間と合流するって算段かぁ!」

「その通りです。一気に渡り歩かなければ、空間の入れ替えが起こってしまう。出会えたはずのドアが入れ替わっていたら二度手間というか、それに気づけない以上、すれ違いになります」


 だから一気に回る必要があった。

 仮に、取りつけたドアが全部で十個だった場合、一個目から順番に確認して五個目の最中に空間の入れ替えが起こったら。

 二個目に再び顔を出せば、仲間がいるかもしれない。

 逆に、空間の入れ替えが起こる前に六個目まで回れていたら、六個目には出会えていたかもしれない。

 そんなすれ違いを防ぐためにも、下準備をしっかりして一気に回るのが望ましかった。

 ヤエは笑顔で感謝した。


「ありがとね、ルカちゃん。魔法んことまで教えてくれて。鷹不二氏のことは信用できるかわからん段階なのに」

「いえ。ヤエさんのところに来た手紙で、鷹不二氏が協力してくれることがわかっています。信用はします」

「けど、ここだけの話。あんまり信用しすぎんでもいいかな」

「……どうしてですか?」


 そんなことをヤエが言うのが意外だった。


「鷹不二氏はせいおうこくの統一を目指しとるけん。そんためには力が必要になるっちゃん、えいぐみば仲間に抱き込み味方にしたか。そげな計算もあって、恩ば売る目的で協力するて思う。少なくとも、大将とミツキくんとヒサシさんな。やけんいいように利用されんよう、開示する情報は選んで、充分に警戒したほうがよかよ」

「ヤエさんも鷹不二氏なのに、どうして……」


 さっきと同じ質問の仕方では、答え方に迷うだろうか。

 ルカはそう思うが、ヤエは笑った。


「ルカちゃんは同じ医者の卵やけん。なんか放っとけんっちゃん。それと、あたしはサツキくんとリラちゃんのことが気に入っとーし、なんの裏もなしに力になっちゃりたかけんね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る