130 『ヴァイオレットルーム』

 魔法、《紫色ノ部屋ヴァイオレットルーム》の使用には制限がある。


 ――《紫色ノ部屋ヴァイオレットルーム》は、条件というより、制限と言ったほうがそれらしい。


 自由度に関する問題とでも言おうか。


 ――それは、術者である私自身のいる場所から、半径一キロの中なら人でも物でも自由に移動できるというもの。


 一キロという距離の制限があった。

 原作オリジナルの魔法《黒色ノ部屋ブラックルーム》は、距離の制限がない。その代わりに建物の中同士でしか移動できない。

 これに対して、ルカが新たな魔法として昇華した《紫色ノ部屋ヴァイオレットルーム》は、建物の内外を問わず移動できる。


 ――だから。一度《紫色ノ部屋ヴァイオレットルーム》を設置して、さらに、その先に別のドアノブを設置したら。ドアを渡り歩いて移動することもまた可能。


 A地点からB地点に移動した後、B地点から移動できる範囲は半径一キロが適用されるからだ。


 ――レオーネさんの《発掘魔鎚ポテンシャルハンマー》がなければ、私が手に入れるには早すぎる代物だった。時期尚早の成果。でも、相性のおかげもあってか、《紫色ノ部屋ヴァイオレットルーム》は創造された。これがあれば、みんなと合流できる可能性が高まる。さっきの戦いとは別に、こんなところでも《拡張扉サイドルーム》を実戦投入する機会が来るのは予想外だったわ。


 が、そんな機会が来たからには実用性を確かめるべきで。

 上手に運用できれば、次の成長につなげられる。


「用意できるドアノブには、個数制限がありますし……もうそろそろ、渡り歩いてみようかと思っています」

「うん。賛成ばい」

「では、次に向こうの壁に取りつけたら、あとは空間の入れ替えが起こり次第、開始します」

「うん! あ、おっと!」


 ヤエは明るく返事をして、それから声を上げた。

 なぜなら、目の前に封筒が現れたからだった。

 この手紙の差出人には見当がつく。


「お嬢からやね」


 ヤエは封筒を手にして開封した。

 手紙を広げて読んでみる。


「ふーん、なるほど。いくつかの敵の情報が得られたみたいばい。魔法については、ルカちゃんも知っておいたほうがよかね」

「はい」


 ルカは「ありがとうございます」と礼を述べた。

 ここで。

 今ヤエの言った「お嬢」とは、たかのことである。

 くにの国主・鷹不二氏の姫で、つまりオウシの妹になる。鷹不二水軍一軍艦のメンバーでもあり、『運び屋』の異名通り物を運ぶのを得意としている。運ぶのは物ばかりではなく、人もそうだ。

 一軍艦の船を操る一軍艦の操舵手にして、馬車も持つ。

 そして、これらはスモモの魔法によって乗り物ごとワープすることができ、長距離も短時間で移動可能となる。

 また、スモモは鷹不二氏の通信役を担う。

 封筒も別の場所へとワープして飛ばすことができるのだが、開封して手紙の中身を読み返信を入れて封をすると、封筒は再びスモモの元へと戻る仕組みになっている。

 ルカはこの封筒のことをヤエからすでに聞いていた。

 本当に、ヤエには政治的な駆け引きなどなさそうで、隠し事もなさそうだった。

 しかしヤエ以外の一軍艦のメンバーは一筋縄ではいかない個性の持ち主ばかりであり、ヤエもそう言っているから、ルカもそんな鷹不二からの情報には努めて客観的な視点で話を聞く必要があると思っていた。


 ――内容は……。


 耳を傾けたとき、それは起こった。


「空間の入れ替えやね。話は歩きながらすればよか。行動開始ばい!」

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